英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

ティム・クックのアップル Aug 2021

 

The Economist, Aug 28th 2021

 

Leaders

Tim Cook’s Apple

The future of Cappletalism

 

 

ティム・クックのアップル

 

いまのアップルは最高(superlatives)としか言いようがない。アップルの時価総額(market valueは2.5兆ドル(274.5兆円)で、世界一である。その資産の80%以上は、ティム・クックがCEOになってからのものである。株主にとって、これほど絶対的な価値(absolute valueを生んだCEOはいまだかつていなかった。アップルを任せられてから10年、ティム・クックは満ち足りている。

 

ティム・クックは前任のスティーブ・ジョブスを真似るということはしなかった。その代わりに、ジョブスの遺産をより素晴らしく、より大きなものとした。ティム・クックの成功は、アップルという企業のもつ革新性(innovation)とブランド力を維持しつづけたことによって成し遂げられた。と同時に、グローバル資本主義の恩恵を一身にうけた。彼はあと5年以上は現職にとどまるつもりだ。はたして彼は、新たな時代に、どんなアップルの絵を描くのだろうか。

 

 

アップルは他のハイテク大企業とは違っている。まず創業が古い(1977年)、そしてハードウェアを中心に販売している。また、企業サイドではなく投資家たちによってコントロールされている。アルファベット、アマゾン、フェイスブックマイクロソフト、アリババ、テンセントよりも販売先がグローバルであり、国外に大きな販売シェアをもつ。

 

ティム・クックの指揮下、4つの方向を目指している。1つ目は世界的な供給網(global supply chains)。中国を中心に世界中から部品が集められ、巨大な製造網が構築されている。来月のiPhone 13(9千万ドル相当の販売が見込まれている)の発表を前に、この製造網はさらに強化されている。

 

中国では労働者を雇い入れるとともに、中国の消費者から大金を得ている。これが2つ目のトレンドである。中国での販売額は600億ドル(6兆6千億円)、10年前から5倍に増えており、ほかの欧米企業の追随を許さない。

 

 

アップルは、政府が市場シェアの大きな企業に対して規制を緩和した時代にうまくやった。携帯電話業界が荒れていたころ(ブラックベリーの浮沈を見よ)、格安の携帯と競いながら、アップルはハイエンドの地位を確立した。アメリカでの市場シェアは60%以上、自社OSもまた支配的である。他のハイテク大企業とは、競い合うというより相乗効果の恩恵に浴した。iPhone検索エンジンとしたグーグルからは、巨額の支払いを受けとった。

 

4つ目のトレンドは税金回避(tax avoidance)である。税金回避地を法的に用いながら、アップルは過去10年以上、税引前利益(pre-tax profit)17%を達成している。

 

しかしながら、これら4つの方向性(トレンド)は怪しくなってきている。地政学的緊張は、グローバル供給網をおびやかしている。中国の習近平による独裁は、中国の占める18%のセールスを鈍らせている。中国の新たなスローガン「共通の繁栄(common prosperity)」によって企業の利益はけずられるかもしれない。欧米の独占禁止法は、グーグルやアップルなどを標的にしている。フォートナイトのゲームメーカー、Epic Gamesは、不当な料金を課されたとして裁判をおこしている。また、OECD経済協力開発機構)が介入してきたことにより、グローバル企業はさらなる納税を迫られるかもしれない。

 

 

ティム・クックには、どんな計画があるのだろう。彼の業績の一つは、アップルの秘密主義(cult of secrecy)を守っていることだ。大量の買い戻しによってウォールストリートを生き延び、社の戦略にかかわる情報を統合した。

 

アップルは税金を回避する方法をみつけるかもしれないが、おそらく納税額はあがるだろう。10億人以上のユーザーをもつアップルは、定期会員(subscriber)を中心に展開していくだろう。すでにセールスの21%がそうした収入である。アップルのデザインは美しく、製造過程も申し分ない。そして、有害で無法地帯になりやすいデジタルの世界にあって、アップルは信頼のおける仲介者であろうとしている(それなりの料金は必要となるが)。さらには、新たなハードウェア、たとえばiGlassやiCarなど、革新的でありつづけるだろう。iPhoneは、そうしたアップル・ワールドへの入り口となる。

 

 

しかしながら、2つの問題がティム・クックを悩ませている。一つはサプライチェーン。アップルはアメリカ本国に軸足を移しつつある。2012年に38%だったシェアは現在70%である(32%増)。しかし、チップメーカーのTSMCはじめ、製品に対する熱意に欠けている。

 

もし、アメリカと中国の関係が悪化すれば、もしくはアップルと北京の関係が気まずくなれば、ティム・クックは中国から去ることになるだろう。そうなってしまうと、アップルの収益のみならず、世界の貿易にまで甚大な影響がでるだろう。

 

独占禁止法の問題が加熱する一方、アップルがサービス部門に進出してくれば、ほかのハイテク大企業と競い合うことになる。アップルはすでにフェイスブックとプライバシー問題に関して小競り合いをはじめている。そうした諍いは、検索やeコマース、エンターテインメント部門にまでおよぶだろう。もはやハイテク企業の「なかよしクラブ(cosy club)」は解散だ。ティム・クックのこれからの任期は、過去10年ほどの成功をおさめることは難しいだろう。彼の今後の決断は、極めて重要である。

 

 

The Economist, Aug 28th 2021

 

Leaders

Tim Cook’s Apple

The future of Cappletalism