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ガス価格、急騰 Sep 2021

 

 The Economist, Sep 25th 2021

 

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Energy Shortages

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ガス価格、急騰

 

 

グローバル市場に欠くべからざる天然ガスが、供給過剰から供給不足へと瞬く間に転落した。昨年9月、欧州における平均的な家庭が一年間に消費するガス料金は119ユーロ(約1万5,200円)であり、大陸のガス貯蔵施設にはあふれんばかりの在庫があった。ところが今や、年間738ユーロ(約9万5,800円)を要し、在庫もカツカツである。シェールガスに潤うアメリカでさえ、その価格は倍以上(より低い水準からではあるが)、今年の冬の寒さ次第では、価格がもっと上昇する可能性がある。

 

ガス不足の原因は多岐にわたる。ヨーロッパの寒い春とアジアの暑い夏が、エネルギー需要を急増させた。工業製品の需要回復により、液化天然ガスの消費意欲が増大した。ロシアはヨーロッパへのガス供給を減らしている。パイプラインNord Stream 2を承認させるために、マーケットに脅しをかけているのではないかと疑うものもいる。しかし、シベリアでは建造中の工場が火災に見舞われるなど、前途多難である。

 

 

天然ガスはこれまで、ほかのエネルギーの不足を補ってきた。ヨーロッパの風は弱く、風力発電が思わしくない。水力発電旱魃によって阻害されている。EUの排出ガス規制のあおりをうけ、石炭は高くなっている。そんなこんなで、家庭の暖房のみならず、発電のために燃やすガスすら代替のない状態である。

 

世界経済は、コンテナ船とマイクロチップというボトルネックが、資本支出(capital-expenditure)のブームを引き起こした一方で、化石燃料への投資は長い下り坂をたどっている。アメリカのシェールガスはそれほどの助けにはならない。なぜなら、ガス市場は不完全ながらも液化天然ガスとリンクしているからである。価格の高止まりは、限られた供給を制限することになるだろう。しかし、大きな値動きは需要を抑制する。もし来たるべき冬が寒ければ、ヨーロッパのエネルギー価格はとんでもなく高くなり、企業も家庭も使用を制限せざるを得ないはずだ。

 

 

これらの原因を見極めるには、何が悪かったのかを正確に診断する必要がある。政府は再生可能エネルギーの不安定性に対して、十分な許容量をもっていなかった。原子力は低炭素かつ常時使用可能であるが、世界に十分な数がない。ガスに対する介入や補助金は、状況を悪くするだけだ。エネルギー価格が高ければ、投資家は怒り、弱者は傷つく。イタリアのように保護されながらも苦境にあるエネルギー産業や、イギリスのような価格規制はエネルギー不足を助長するばかりだ。政治家たちの唱えるグリーン政策には中身がない。政府は必要ならば生活保護システムで家計の収入をサポートすべきであり、エネルギー市場が効率的に機能するようにテコ入れしなければならない。

 

長期的な取り組みは、再生可能エネルギーへの移行がつづく限り、価格変動を緩和することになるだろう。再生可能エネルギーの不安定性は、バッテリー価格が下がれば最終的に解決する。ガス貯蔵施設を増やせば、とりあえずの助けにはなる。その間、市場の価格を調整しておけば、状況を好転させる可能性がある。

 

 

イギリスでは、多くのエネルギー供給者が、変動価格でエネルギーを購入しているにもかかわらず、消費者とは一年固定価格の契約を結んでいる。これではうまくいかない。卸価格の上昇リスクをヘッジするために、企業は固定価格でエネルギーを販売すべきだろう。そうすることで、ガス貯蔵設備への投資も促される。電力網やLNG施設への投資を増やすのも一手だ(最近、英仏間のグリッドは失敗に終わったが)。裁定取引は、世界のエネルギー供給の不均衡を是正するだろう。

 

汚染源となるエネルギーはもっと高額であるべきだろうが、ほかの代替エネルギーがないかぎり、価格上昇はインフレを加速させ、低所得者層を苦しめ、環境保護論者の立場を失わせてしまう。もし、政府がエネルギー移行を慎重に管理できないのであれば、今日の危機的状況は、安定した気候を脅かすであろう最初の一例となってしまう恐れがある。