英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

国債のかんしゃく Nov 2021

 

The Economist, Nov 6th 2021

 

Leaders

Markets and inflation

Bond traders stir

 

国債のかんしゃく

 

 

世界の国債市場は長き停滞から弱含んでいる。アメリカ連邦準備理事会は今週、国債買い入れプログラムを段階的に縮小すると発表した。同時に、国債投資家らは価格の上昇に反応している。35の国々において5年債の利回りが過去3ヶ月で平均0.65%上昇した。この現象は新興国市場のみならず、オーストラリアやイギリスなどの先進国でも起きている。突然の変動に市場はおののき、2013年の金融縮小による「市場のかんしゃく」を思い出した。しかしながら、今回の国債価格の変動はまったく異なるものである。

 

パンデミック以前、世界の金利は低かった。それは物価が停滞していたからだ。2年前、コロナウイルスに襲われ、各国の中央銀行は経済を回復させるため、低い政策金利を長期間継続することを約束した。そして、低金利国債を買い入れた。

 

今回の金利急上昇は、インフレの急進によるところが大きい。OECD加盟38ヶ国において、9月のインフレ率は年率換算4.6%。エネルギーと食糧の価格上昇が大きかったが、それを除いても3.2%と、過去20年間で最高の数値となった。

 

 

各国の中央銀行は、インフレの高騰は一時的な供給網の滞りによるものであると、ここ数ヶ月間言っている。しかし、国債市場における投資家たちは、中央銀行の行動は遅すぎると言っているかのようだ。金融当局のなかでは、すでに引き締めはじめたところもある。ブラジルは先週、1.5%の利上げを表明した。カナダとオーストラリアの中央銀行は低金利のまま据え置くという長期見通しを放棄した。イングランド銀行は利上げをするかどうか決めかねている。強い立場を保持する政治家もいる。ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁は来年の利上げは「まずない(very unlikely)」と言明している。

 

揺れ動く市場の金利に起因する中央銀行の不安は、2013年の記憶が蘇るためであろう。当時、FEDが迂闊にも国債買い入れプログラムの縮小をはじめると漏らしてしまった。その結果、世界的なプチパニックへと発展し、成長は阻害され、ドル負債の大きい新興国は打ちのめされた。

 

しかし、今は2013年とは異なる。国債市場の動きはもっと小さい。アメリカ5年物国債の名目利回りは今のところ、8年前の半分以下の上昇にとどまっている。期待インフレ率を差し引いた実際の国債利回りはマイナス1%であり、過去最低に迫る。実体経済を支えるには十分であろう。短期の国債利回りが上昇しているとはいえ、長期のそれの動きは鈍いままだ。

 

 

なにより、いまだ金融パニックは起きていない。借り入れコストの上昇は、デフォルトや資本逃避を引き起こすものだが、新興国の外貨準備高は健全かつ回復力がある。株式市場にも苦悩の影はみられず、むしろ今週の株価は史上最高値を記録している。銀行の株価も今年、28%の上昇をみせている。なぜなら、金利が徐々に上昇することで利益が増しているためである。国債市場は普通どおり機能している。10月、中国以外の新興国は記録にせまる社債国債を発行している。

 

警報とよべるものはない。市場は、インフレ率のコントロールを失わない程度に、中央銀行には金利の引き上げを先延ばしにする必要があると考えている。しかし、中央銀行が極端に困難な状況に直面しているのは確かである。パンデミックの終息に向けた不確定な状況にあって、これまでの超緩和的な金融政策を正常化していかなくてはならない(資産価格は空高く、借り入れは多大で、インフレ率はターゲットを超過している)。「市場のかんしゃく2.0」はまだ始まっていない。だが、国債に大喧嘩をさせてはならない。