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戦闘間近、アディスアベバ Nov 2021

 

 

The Economist, Nov 4th 2021

 

Middle East & Africa

Ethiopia’s civil war

A battle for the capital looms

 

戦闘間近、アディスアベバ

 

 

このような事態に陥るとは、誰が予想しえたであろう。およそ一年前に内戦がはじまったとき、エチオピア首相Abiy Ahmedはティグレ人民解放戦線(TPLF)を抑える速やかな軍事行動を約束した。ティグレ人民解放戦線(TPLF)とは、ティグレ州を支配する反抗勢力である。連邦軍の基地を攻撃したことに対する裁きが目的だった、と彼は言う。一ヶ月も経たず、アムハラ州の民兵に支援されたエチオピア連邦軍は、北の隣国エリトリア軍とともに、ティグレ州の首都メケレのほとんどを支配下においた。ティグレ人民解放戦線(TPLF)のリーダーは山中へと身を隠し、Abiy首相は勝利を宣言した。

 

その後、ティグレ人民解放戦線(TPLF)は劇的な復帰を果たし、エチオピアの首都であるアディスアベバへの襲撃とアフリカ連合の座を狙うまでになった。ティグレ人民解放戦線(TPLF)のリーダーは、2018年にAbiyによる大規模な反抗によって追放される以前、30年間中央政府を仕切っていた。そして現在、過去にそうであったように南を目指して進軍している。30年前におけるゲリラ団のような熾烈さで。

 

パニックの起こった112日、Abiy首相は国家非常事態を宣言し、一般人にも都市防衛の戦力となるよう促した。アフリカ大陸第2の人口をもつ首都アディスアベバは、戦場に一変するという恐怖にかき乱さている。アメリカはエチオピア国民に荷造りするよう忠告している。

 

 

反乱軍がどれほどのものかは判然としない。最近、アムハラ州のデセとコムボルチャを制したと彼らは言う。両方とも戦略的に重要な街である。それでも、まだ首都アディスアベバから250km以上は離れている。ティグレ人民解放戦線(TPLF)はアファール州に向けて東進しているという。ジブチ共和国につながる道路と線路を支配しようとしているようだ。

 

一方、別の反乱グループであるオロモ解放戦線(OLA)もティグレ人民解放戦線(TPLF)に合流し、首都への道を遮断する準備をしているという。連邦軍はそれに関する情報を把握していない。北方とのコミュニケーションがとれていないため、矛盾する情報を精査する術がない。

 

疑いないことといえば、連邦軍が尻込みしていることぐらいだ。111日、占拠された街の支配が不安定であるという暗黙の了解のもと、政府はティグレ軍がコムボルチャの若者100名あまりを虐殺したと非難した。その前日、アムハラ州の地方政府は外出禁止令を発令して、政府機関を閉鎖した。政府所有の自動車などは戦争に供されることになった。アディスアベバでは住民にガンを持たせて自警団を結成させている。

 

 

非難の応酬がはじまっている。アビィ首相は外国軍がデセにおける戦闘でティグレ人民解放戦線(TPLF)とともに戦っていると主張した。国内の裏切り者が敵と通じていると言う者もいる。アムハラ人の活動家Dawit Mehariは、幻滅したアムハラ人は連邦政府を非難しはじめている、と言う。「政府内の利益団体は政府軍による防衛が失敗することを望んでいる」と彼は言う。

 

民族闘争への恐れが制御不能になるかもしれない。アメリカは反乱軍に進行をやめるよう要請している。アフリカの角におけるアメリカの特使は言う、「われわれはティグレ人民解放戦線(TPLF)によるアディスアベバへのいかなる動きにも反対する」と。アディスアベバのティグレ人は拘束されている。「通りで人がさらわれている」とティグレ系の住民は言う。外国の大使館に庇護を求める人もいるという。オロモとアムハラという2つの多数派グループの衝突も恐れられている。もしオロモ解放戦線(OLA)がアディスアベバへの攻撃を開始したら、両者による戦闘はすぐに勃発するだろう。両者ともに街の支配権を主張している。「リアルかつ明らかな恐怖があります」と首都にいる西洋の外交官は言う。

 

アビィ首相による非常事態宣言により、広範囲にわたる逮捕の権限、勝手な集会や、ティグレ人民解放戦線(TPLF)に加担するようないかなる動きに対して過酷な制限などが課されることになった。そしてまた、軍兵を動員するための下地づくりにもなった。数週間に渡って、アムハラ州政府は若者をバスに乗せて送り込んでいる。彼らの手には、戦闘に備えたマチェット刀やナイフなどが握られている。1031日、首相顧問はテレビで言った、反乱軍を倒すには大量の動員が必要になるだろう、と。

 

 

外国の政府は和平計画を急いでいる。11月2日、アメリカはアフリカ成長機会法(AGOA)のもと、エチオピアからの免税品のアクセスを凍結した。もし交戦グループが交渉に応じない場合は、制裁も視野に入れている。

 

しかし、そのような外交はもはや手遅れかもしれない。アビィ政府はそういった対話を主権に対する侮蔑だと非難している。ティグレ軍が侵攻してくれば、対話をする気も失せるだろう。「犯罪政府とどんな交渉をするというのだ」とティグレ人民解放戦線(TPLF)の司令官Tsadkan Gebretensaeはティグレのテレビで言っている。

 

一年前に戦いがはじまった直後にアビィ軍に合流したエリトリア軍にも問題がある。ティグレ人民解放戦線(TPLF)はエリトリア大統領Issaias Afwerkiにとって宿敵である。19982000年の間に、新たに独立したエリトリアエチオピアと国境争いをしていたが、その後、ティグレ人民解放戦線(TPLF)によって占拠され、およそ10万人の犠牲がでた。7月にティグレ人民解放戦線(TPLF)が再びティグレ州の大半を支配したとき、エリトリアは静観していた。まるで、最後の出番がくるのを待つかのように。「平和的解決はIssaias大統領の望むところではない。なぜなら、ティグレ人民解放戦線(TPLF)を公認することになってしまうからだ」とエチオピア通のアナリストは言う。アディスアベバ攻防戦は、日一日と迫ってきている。

 

 

 

アメリカ経済の回復 Nov 2021

 

The Economist, Nov 4th 2021

 

Finance & economics

America’s economy

Inner strength

 

アメリカ経済の回復

 

 

輸送会社hub groupのマネージャーはイリノイ州の本社にいながら、何回かクリックするだけで、8週間後には新たなコンテナ船が中国からアメリカに来ていた。しかし最近は、社長のPhillip Yeagerが頭を悩ませている。ロングビーチの港は大変に混み合っており、長く待たされた海外向けのコンテナ船にようやく出番がきたところだ。しかし、その船にはまだ積み込むコンテナがない。Mr Yeagerのチームは大急ぎでコンテナを探し回っている。ようやくコンテナを見つけたのは丸々一ヶ月も経ってからだった。

 

何千ものコンテナ船がそうであるように、この話はいかに供給網が混乱しているのかを物語っている。とくに、世界最大の消費国であるアメリカがそうだ。これは経済に打撃を与えている横断的な力の一部に過ぎない。財への需要が凄まじいにも関わらず、企業は労働者や供給網の確保がままならない。その結果、賃金と物価は上昇している。そもそもの歪みの原因であったパンデミックからの反動だ(パンデミックは弱化しているものの、完全に消えてはいない)。過去18ヶ月間における異例の財政金融刺激策は引き上げの準備に入っており、さまざまな分野で混乱が起きている。11月3日の会合の末、FRB(連邦準備理事会)は毎月行われていた1,200億ドル(約13兆2,000億円)の国債買い入れプログラムを縮小すると発表した。来年の6月にはすべての買い入れを終了する予定である。

 

これらの要因によって変動幅はまちまちとなり、10月28日に公表された第3四半期のGDPにつながった。GDPの成長率は過去3ヶ月間に比べ年率換算2%の成長となった。なにを基準にするかによるのだが、その反応は最高と最悪の両方だった。2020年末になされた予測に比べ、今年最初の3四半期は見込みよりも3分の1以上成長していた。しかし、エコノミストのなかには第3四半期の成長は実際の3倍以上と期待していたものもいた。

 

 

第4四半期には反動がくるかもしれない。消費者の信頼感は夏にデルタ株が流行したことによって急激に低下した。だが今やデルタ株は下火になり、信頼感も回復した。これからのホリデーシーズンに向けて、買い物と旅行は好調が期待できる。しかし、供給網は多少の改善はみられたものの、依然旧に復さない。Mr Yeagerはより良い「ネットワークの流動性」について語る。電車が定刻に到着し、工場が効率的に操業している状態のことである。バンク・オブ・アメリカのアナリストによれば、今年最後の3ヶ月で年率成長率は6%を超えるという。

 

目先の反動はさておき、回復基調はどれくらいの期間つづくのだろうか。終わりの見える兆候は大きく3つある。労働市場の逼迫、インフレ率の高止まり、早すぎる刺激策の緩和。それぞれが回復を損なわないと考えることもできるし、成長気運は強いままであるかもしれない。

 

過去における最も好ましい経済の発展は、失業率の特筆すべき低下にある。景気後退が終わっても、労働市場が回復するには数年を要する。パンデミックが最高潮にあったときは全てが絶望的であり、失業率は大恐慌以来の14.7%という高さにまで跳ね上がった。それでも、仕事に戻り始めると(必ずしもオフィスではなくとも)、失業率は驚異的に回復した。9月の失業率は4.8%である。

 

 

現在注目すべきは労働者の雇用が企業の課題になっていることである。とく肉体労働者が不足している。これは回復が終わりに向かっていることを意味する。ここが経済の限界である。しかし、余地は残されている。パンデミック以前の労働力の2%、およそ3百万人がいまだ仕事に復帰していない。早期にリタイアした人もいるかもしれないが、その多くは子供の世話やウイルスへの恐れから家に留まっているのである。学校の再開やワクチンによって現在の懸念が解消されれば、そうした人々は徐々に仕事場に戻ってくるだろう。

 

インフレの急騰は回復を妨げる大きな懸念である。アメリカの連邦準備制度が好む指標である個人消費支出価格指数は、9月は前年に比べ4.4%上昇している。ここ30年来、最高の値である。連邦準備制度エコノミストたちは、このインフレは供給網の滞りからくる一時的なものであると考えている。

 

労働市場の逼迫が物事をややこしくしている。第2四半期に比べて第3四半期には賃金が1.5%上昇している。ここ20年で最高の上昇である。看護師や給仕係の賃金が上がるのは歓迎すべきことかもしれないが、賃金の上昇が物価をさらに押し上げる恐れがある。1970年代には賃金と物価が相互に上昇しつづけたことがある。とはいえ、当時と状況は大きく異なる。現在は労働組合が弱く、生計費調整が雇用契約に組み込まれていないことが多い。すなわち、物価と賃金間のつながりは弱いということである。連邦準備制度は物価の上昇はすぐに落ち着くだろうと、必要以上に楽観視しているようだが、そう考える根拠はある。供給網が徐々に平常へと戻り、労働者が戻ってくれば、金利の上昇を強いることなく、インフレ率は後退していくだろう。

 

 

それに関連する最後の懸念は、刺激策の終了である。アメリカの財政赤字は2020年、GDP比15%に達している。第二次大戦以来、最高の水準である。これが苦痛の種となるだろう。来年、2.5%赤字を削減したとしても、それは過去20年間で最大の財政重荷となる、とワシントン州Fiscal and Monetary Policyのthe Hutchins Centreは言う。

 

金融の断崖はそれほど急ではないが、経済にのしかかっている。テーパリングの次の課題は、連邦準備制度がいつ金利を上げるかである。ゴールドマン・サックスは10月29日、最初の利上げは、前回の予想よりも丸1年早い、来年7月になるだろうと言っている。それはインフレ率が上昇をつづけた場合である。

 

刺激策がなくなれば、通常、成長は鈍化する。しかし、他の要因が経済を守ってくれるかもしれない。財への消費はトレンドラインよりも15%高く推移している。それは消費者が休暇やレストランへの支出を控え、家具やエクササイズ自転車、巣ごもり必需品へとお金を使っているからである。しかし、パンデミックが目に見えて収束してくると、人々は再び体験に対して出費するようになるだろう。それが経済の活力となる。サービス産業は支出の80%近くを占めているからだ。

 

刺激策による助けなしでも、支出の気運は高まっている。ウェルズ・ファーゴのJay Brysonは言う、家計のバランスシートの強さがアメリカの成長予測の分析起点となっている、と。可処分所得としての個人債務は、過去最低に近い。企業の在庫も最低水準にある。つまり、必要になれば在庫を積み増せるということだ。「私の知るかぎり、われわれは成長の初期段階にいるということです」とMr Brysonは言う。

 

Mr Yeagerも同じ結論である。小売店が在庫確保に走れば、Hubへの注文もあっという間にいっぱいになるだろう。見込み客のなかには背を向ける者もいるかもしれない。「この強さは来年いっぱい続くと思うし、それ以上つづく可能性もある」と彼は言う。

 

 

国債のかんしゃく Nov 2021

 

The Economist, Nov 6th 2021

 

Leaders

Markets and inflation

Bond traders stir

 

国債のかんしゃく

 

 

世界の国債市場は長き停滞から弱含んでいる。アメリカ連邦準備理事会は今週、国債買い入れプログラムを段階的に縮小すると発表した。同時に、国債投資家らは価格の上昇に反応している。35の国々において5年債の利回りが過去3ヶ月で平均0.65%上昇した。この現象は新興国市場のみならず、オーストラリアやイギリスなどの先進国でも起きている。突然の変動に市場はおののき、2013年の金融縮小による「市場のかんしゃく」を思い出した。しかしながら、今回の国債価格の変動はまったく異なるものである。

 

パンデミック以前、世界の金利は低かった。それは物価が停滞していたからだ。2年前、コロナウイルスに襲われ、各国の中央銀行は経済を回復させるため、低い政策金利を長期間継続することを約束した。そして、低金利国債を買い入れた。

 

今回の金利急上昇は、インフレの急進によるところが大きい。OECD加盟38ヶ国において、9月のインフレ率は年率換算4.6%。エネルギーと食糧の価格上昇が大きかったが、それを除いても3.2%と、過去20年間で最高の数値となった。

 

 

各国の中央銀行は、インフレの高騰は一時的な供給網の滞りによるものであると、ここ数ヶ月間言っている。しかし、国債市場における投資家たちは、中央銀行の行動は遅すぎると言っているかのようだ。金融当局のなかでは、すでに引き締めはじめたところもある。ブラジルは先週、1.5%の利上げを表明した。カナダとオーストラリアの中央銀行は低金利のまま据え置くという長期見通しを放棄した。イングランド銀行は利上げをするかどうか決めかねている。強い立場を保持する政治家もいる。ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁は来年の利上げは「まずない(very unlikely)」と言明している。

 

揺れ動く市場の金利に起因する中央銀行の不安は、2013年の記憶が蘇るためであろう。当時、FEDが迂闊にも国債買い入れプログラムの縮小をはじめると漏らしてしまった。その結果、世界的なプチパニックへと発展し、成長は阻害され、ドル負債の大きい新興国は打ちのめされた。

 

しかし、今は2013年とは異なる。国債市場の動きはもっと小さい。アメリカ5年物国債の名目利回りは今のところ、8年前の半分以下の上昇にとどまっている。期待インフレ率を差し引いた実際の国債利回りはマイナス1%であり、過去最低に迫る。実体経済を支えるには十分であろう。短期の国債利回りが上昇しているとはいえ、長期のそれの動きは鈍いままだ。

 

 

なにより、いまだ金融パニックは起きていない。借り入れコストの上昇は、デフォルトや資本逃避を引き起こすものだが、新興国の外貨準備高は健全かつ回復力がある。株式市場にも苦悩の影はみられず、むしろ今週の株価は史上最高値を記録している。銀行の株価も今年、28%の上昇をみせている。なぜなら、金利が徐々に上昇することで利益が増しているためである。国債市場は普通どおり機能している。10月、中国以外の新興国は記録にせまる社債国債を発行している。

 

警報とよべるものはない。市場は、インフレ率のコントロールを失わない程度に、中央銀行には金利の引き上げを先延ばしにする必要があると考えている。しかし、中央銀行が極端に困難な状況に直面しているのは確かである。パンデミックの終息に向けた不確定な状況にあって、これまでの超緩和的な金融政策を正常化していかなくてはならない(資産価格は空高く、借り入れは多大で、インフレ率はターゲットを超過している)。「市場のかんしゃく2.0」はまだ始まっていない。だが、国債に大喧嘩をさせてはならない。

 

 

リーダーシップなき岸田首相 Nov 2021

 

The Economist, Nov 5th 2021

 

Asia

Japanese politics

Wishy-washy

 

リーダーシップなき岸田首相

 

 

岸田文雄氏が9月の終わりに自民党総裁になったことで、自民党の先行きは暗くなったといえる。前任者菅義偉氏のコロナ対策の不手際から民衆の不満は高まっている。次の衆議院選挙では過半数を割るという世論調査もある。岸田内閣に対する評価は、新首相にしては低い。岸田首相は公明党とともに過半数である233議席以上を確保したことで勝利を宣言した。しかし、前回の与党305議席よりも成績は悪い(公明党を含めて293議席)。

 

岸田首相は用心しすぎた。10月31日に開票されると、自民党は前回より15議席減らしただけで、261議席を確保した。すなわち、自民党単体で過半数を越えていたのであり、国会の常任委員会を仕切れるのである。岸田首相は一安心だ。一方、国民の不満を当てにした野党は大敗北である。最大野党の立憲民主党は13議席を失い、11月2日、枝野幸男党首は辞意を表明した。

 

立憲民主党敗北の原因は、2009~2012年に与党として失態を演じたことがあげられる。加えて、選挙戦略もまずかった。共産党と共闘したことで、多数の選挙区で候補者の調整が行われ、立憲民主党本来の支持者を遠ざけてしまった。さらに、有権者の40%を占める無党派層にも嫌われ、投票率が低調に終わった。最終的な投票率は56%で、戦後最低を記録した2014年の53%、前回の衆院選2017年の54%をわずかに上回っただけだった。

 

 

投票率の低さにも関わらず、選挙結果は現状維持を認めなかった。野党支持の気運は維新の会の躍進にみられた。前回の11議席から41議席へ、3倍以上に増えた。地元関西に支持され、地方政党としては珍しく全国区に躍り出た。

 

新興勢力の力強い台頭の意味するところは、競争力のある対抗馬が現れれば、自民党は見限られるかもしれない、ということだ。ピュー・リサーチ・センターによる最新の国際研究によると、日本は政治・経済・健康保険システムなどで大きな変化、もしくは根本的な改革を国民の半分以上が望む6ヶ国のうちの一つである(残り5ヶ国はアメリカ、フランス、ギリシャ、イタリア、スペイン)。

 

岸田首相は大きな変化を約束している。彼の掲げる「新しい資本主義」という運動は、元首相の安倍晋三氏によるアベノミクスと対比されるものである。しかし、日本のビジネスリーダーはじめ岸田首相の新しい資本主義委員会に至るまで、その意味するところを把握していないようだ。どのような変化を起こすにせよ、おそらくそれほど過激なものではないだろう。

 

 

岸田首相のほかのアジェンダも不透明なままである。岸田首相の国際ステージデビューは、グラスゴーで開催されるCOP26サミットである。アジアにおける脱炭素対策を援助するために100億ドル(約1兆1,000億円)を追加で支出することを約束したものの、2050年までのカーボンニュートラルにむけて日本が何をするのか、ほとんど明らかにされなかった。

 

防御策として、自民党は支出をGDP比2%増やすことを公約にかかげている。しかし、その使い道は判然としない。そして、国民も財務省もその必要性に納得していない。驚くことではないが、岸田首相の勝利を一番喜んでいるのは官僚組織である。かれらは現状を覆しそうにない従順な人物を好む。野党が結束して対抗してくるまでは、自民党の座は安泰であろう。それでも、岸田首相はリーダーとしての姿を示さなければならない。

 

 

窮地のバイデン大統領 Nov 2021

 

The Economist, Nov 6th 2021

 

Leaders

American politics

One year on

 

窮地のバイデン大統領

 

 

労働に関する2冊の本がジョージ・ワシントンのために書かれた。そのタイトルは「大統領には不可能な任務」。最高に有能な大統領にでさえ失敗の恐れはある、とJeremi Suriは最新の著書「失敗を小さくして善をなす―望みうる最高」で書いている。

 

この悲観的な基準でみても、ジョー・バイデンは沈みかけている。大統領選挙では歴史上最高の得票数(8,000万票以上)を得たにも関わらず、支持率が急落している。大統領一期目のこの時点において、バイデンより支持率が低かったのはトランプ前大統領のみである。民主党バージニア州の3つの重要なポストを失った。一年前、彼はこの州で10%差をつけてトランプに勝っていたのだが。このままでは来年の中間選挙が危ぶまれる。民主党は議会の過半数を割る恐れがある。

 

議会における民主党は、派閥争いに忙しい。年初に巨額の刺激策が通ったものの、ほかの議題は行き詰まったままである(1兆ドルの超党派インフラ案、10年以上にわたる1兆7,000億ドル規模の社会支出案など)。これらの法案が議会を通れば、立法化の段階でさらなるインフラ支出が必要になるだろう。貧困撲滅のための子女税額控除、未就学児への基金、処方箋およびクリーンエネルギーへの税額控除に対するコストの削減などは、新たな生産性向上へ向けた民間投資を促すだろう。こうした支出は有害な税改正とみなされるかもしれないが、有権者らは気にもとめないだろう。

 

 

実際、来年には心が軽くなるかもしれない。コロナの感染者数は9月以来、半減している。さらに失業率が改善し、供給網の滞りが解消し、インフレ率が落ち着けば、今まで苦労してきた生活も楽になるだろう。だが、バイデン大統領にとっての良い知らせはそれで終わりだ。

 

問題のいくつかは固定化したものだ。アメリカの政治は競馬の勝率のように不確かなものではなく、物理法則のようにパターン化している。まず一つ目として、民主党中間選挙議席を失うだろう。下院における民主党の優位は4議席分しかないため、過半数を割り込む恐れがある。そのため、バイデン大統領が何をやろうとしても、立法段階において調整局面に移らざるをえない。それでも、最高裁においては保守派が多数であるため、バイデン大統領はペンと電話でできることがある。

 

来年以降、民主党の未来はますます暗くなる。民主党は大学を出ていない白人グループに人気がないため、地方や郊外などで費用がかさむ。上院と下院の選挙人団を勝ち取るには、過去に例がないほど多数の票が必要になる。同時に、国家機関の改善や、公衆衛生・気候変動・社会的流動性などアメリカの抱える問題を改善しなければならない。このような状況で勝利をつかむには、人智を越えた才能が必要になるだろう。

 

 

バイデン大統領には荷が重すぎる。彼は個人的な困難であれば、立派にこなす。しかし、彼が大統領職を得るまでに30年以上もかかったのには理由がある。民主党における予備選挙有権者は彼の才能を買って票を投じたわけではない。革新主義の旗頭、バーニー・サンダースを阻止するための防衛手段としての意味合いが強かった。

 

バイデン大統領は自らの能力、中道主義、外交経験を売り物にし、むかつくトランプ主義を拒絶している。しかし、アフガニスタンからの撤退は大失敗だった。それまでは左翼と熾烈を極めた文化間戦争を治めていたのだが。インフラや社会支出に関する法案について有権者が何も知らないという事実は、彼の落ち度でもある。子供の貧困は4分の1ほど減ったが、それは彼が通した法案のおかげである。ほとんどの民主党員はそれを知らない。

 

問題はバイデン大統領にだけあるのではない。民主党の左翼および大卒の活動家らは、有権者が人種や政府の役割りについて固定化した観念をもっていると思い込んでいる。バージニア州がその愚かさを証明した。アメリカは若く、多様な国家である。年齢中央値は40歳以下であり、60%が白人と認定されている。有権者は異なる。2014~2018年の中間選挙を例にとれば、75%の有権者が白人であり、年齢中央値は来年53歳になる。民主党は大卒の有権者に対して圧倒的に優位である。しかし、4年制の大学を完了しているアメリカ人は36%に過ぎない。これはじつに心もとない基盤である。一方の共和党は非白人の有権者を取り込みはじめている。

 

 

リチャード・ニクソンが1972年に勝ったとき、新左翼民主党員は「acid(LSDの合法化)、amnesty(徴兵拒否者への恩赦)、abortion(中絶)」というレッテルを張られた。新新左翼はwhite guilt(白人の罪)、cancel culture(キャンセル・カルチャー)、母を出産人と言う人などと戯画化される。そして、FBIを教師を批判した痛みをもつ両親としたがる。

 

こうした口うるさい活動家や少数の過激者は、当たり障りのない民主党議員を選び、党自体が幅広い穏健層を獲得することを難しくしている。彼らは党全体の票の一部を占めるにすぎない。移民の活動家らは副大統領宅の周囲にキャンプを張り、バイデン大統領がトランプ前大統領の国境政策を変えていないと不平をこぼす。対照的に、黒人ジョージ・フロイドが殺害されたミネアポリス民主党支持者は、警察組織を公衆安全なものに代えるために投票しているだけである。

 

過激な左派の要求を実行するという共和党への反論は、バイデン大統領を党の少数派に対してより難しい立場に追いやるだろう。それは彼らの嫌がることをやることを意味するかもしれない。バイデン大統領は殺人率の急増している都市に多くの警察官を配備することもできるし、サンフランシスコの教育委員会に喧嘩を売ることもできるだろう。サンフランシスコではアブラハム・リンカーンが白人優位主義のシンボルとして崇められている。

 

もし民主党が権力を得るために薄汚い企てがあると思っているのなら、共和党で何が起こっているのかに注目すべきだ。グレン・ヤンキンがバージニア州の知事として選出されたことは、トランプ前大統領の共和党でも激戦州で勝利できるということを意味する。2人が争う大統領選挙においては、常にどちらにも勝つチャンスがある。バイデン大統領と民主党はトランプ前大統領が再選しないよう、最大限の努力をするべきだ。なぜなら、失敗つづきのバイデン大統領が優位に立てる場所が、そこにあるからだ。

 

 

宇宙から見る太陽光パネル Oct 201

 

The Economist, Oct 27th 2021

 

Science & technology

Renewable energy

A census of solar cells

 

宇宙から見る太陽光パネル

 

 

地球全体のエネルギーシステムを再構築するのは大仕事だ。10月31日からイギリスではじまる予定のCOP26気候会議の代表団に聞いてみるといい。最も基本的な問題は、何を再構築するかを正確に知ることである。学術調査グループ、シンクタンク、慈善団体、その他の関係機関は、世界の風力発電、太陽光設備、化石燃料発電所、セメント工場などを追跡調査しようと尽力している。最終的には各国政府や大企業のデータに頼ることになるのだが、それらは正確でないことも多い。アメリカの太陽光発電の導入状況に関する情報ですら、設置された太陽光パネルの5分の1近くがデータベースに載っていないという。

 

ネイチャー誌に掲載された、オックスフォード大学のLucas Kruitwagenの研究チームの報告では、再生可能エネルギー革命の状況を把握する新たな方法が例示されている。Dr Kruitwagenは同僚とともに世界中の太陽光発電、約69,000箇所をリストアップした(10kw以上の発電能力を有するもの)。前回のデータベースに比べると、4倍以上に増えていた。この新たなデータベースには、設置場所、サービス開始日、大まかな発電能力などが記載されている。

 

チームのとった方法はシンプルである。トップダウンというよりボトムアップの手法であり、宇宙から全地球を俯瞰して、目視できるソーラーパネルの数を数えた。このやり方は初めての方法ではなかったが、それまでの調査では限られた国のみが対象となっていた。Dr Kruitwagenの知るかぎり、全地球規模で特定の設備をカウントしたのは彼が初めてである。もちろん地球は巨大なため、言うは易く行うは難しである。その調査を可能としたのは、2つの偉大なテクノロジーであった。

 

 

1つ目は、大量かつ安価に入手できるようになった衛星画像のおかげである。20世紀までは少数の国だけが、そうした衛星画像を独占していたが、いまでは民間の調査機関や企業が、オープンマーケットで販売するようになっている。Dr KruitwagenはEuropean Space Agency のSentinel-2と、Airbus のspotという2つの衛星の画像を入手した。それらの画像は、可視光線のデータとともに、赤外線・紫外線による可視化画像も含まれていた。Dr Kruitwagenの用いた画像は2016~2018年の期間のものであり、その容量は約550テラバイトである。100台以上のデスクトップパソコンが必要だった。

 

この大量の画像から太陽光パネルを探し出すことは至難の業だ。そこで第2のテクノロジーが役に立つ。Dr Kruitwagenらはマシンラーニングの手法をつかって、太陽光パネルを特定していくことにした。

 

コンピューターによる画像認識は日進月歩の進化を遂げているものの、衛星画像から特定のものを探し出すような既存のソフトウェアは存在しない。マシンラーニングを活用するにはコンピューターをトレーニングする必要がある。たとえば、顔認識のような一般的な用途であれば、既存のトレーニングセットが利用できる。ところが、Dr Kruitwagenの目的を達成するには、みずからトレーニングメニューを組み上げなければならなかった。

 

 

そこで、グーグルマップ同様のオープンソースであるOpenStreetMapを用いることにした。この地図上ではボランティアらの手によって、太陽光発電施設なども大量にタグ付けされていた。しかし、それらは気まぐれなものが多かった。「なんとなく全体をなぞったものもあれば、それぞれのパネルの列を別々に区分けしてあるものもありました」とDr Kruitwagenは言う。そうした不完全さを修正するために、膨大な人力が必要だった。

 

レーニング用のデータが整ってくると、解析の手順も調整されてきた。宇宙から見れば、巨大太陽光設備ですら小さく見える。衛星Sentinelの画像は一ピクセルが10x10メートルである。より解像度の高い衛星spotの場合は、一画1.5メートルである。顔認識や自律運転車で用いられている分類法は、認識範囲にある目的の物体を拡大して表示する。小さなものを探し出すときには、その性能をさらに強化する必要がある。間違えて認識してしまうこともある。たとえば、テニスコートや農業用ハウスなど、宇宙から見ると太陽光パネルに見えてしまう。そうした誤認には修正が必要だ。

 

しかし、Dr Kruitwagenが得た優れたデータも、すでに時代遅れだ。なぜなら解析されたデータは2018年までのものであり、その後、何千という太陽光設備が新たに導入されている。それでも、この手法は役に立つと彼は言う。多大な労力を投下してつくったトレーニングセットは、他の人々にも利用が可能である。論理的には、家庭用の屋根に設置されている太陽光パネルまでをもカウントすることができるだろう。1メートルにも満たないようなパネルを認識するには、ほかの方法では極めて難しい。

 

Dr Kruitwagenによる空に目をむけるアプローチは、その地球規模のプロジェクトにも関わらず、費用は1万5,000ドル(約165万円)程度に済んでいる。この手法は、気候変動に影響をあたえる他の設備、たとえば化石燃料発電所、セメント工場、天然ガスの輸送船を正確に調査できるようにもなるだろう。いずれ、地球上にあるあらゆるエネルギー関連施設の逐一の状況がコンピューターにより把握できるようになるかもしれない。この統計モデルの商業的および学術的価値を抜きにしても、と彼は言う、政治家らに圧力をかけることはできるだろう、と。

 

 

日本のコーポレート・ガバナンス Oct 2021

 

The Economist, Oct 30th 2021

 

Business

Japanese corporate governance

Poison-pill popping

 

日本のコーポレート・ガバナンス

 

 

岸田文雄首相は言明した、安倍晋三元首相によるコーポレート・ガバナンス改革に反対しない、と。企業に対して、社内のマネジメントよりも株主へのリターンを重視させることが、安倍氏の経済改革の肝であった。岸田首相もまた、企業の言いなりではない。賃金を増やす企業に対して減税措置を講じる提案は、自民党マニフェストに盛り込まれている。と同時に、株主よりも利害関係者(顧客や従業員など)が重要であるとも言及されている。日本の株主資本主義を考えるとき、このままでは不十分であると言わざるをえない。

 

岸田首相の企業に対する姿勢は、次の一件でもより明確になるだろう。SBIホールディングスは9月、新生銀行の持ち株比率を20%から48%へと高めた。SBIは買収などによってメガバンクになる野心がある。日本に多数存在する小さな銀行が合併されていくことは、ある種、コーポレート・ガバナンス改革の一環ともいえる。新生銀行はSBIの申し出を敵対的買収(日本では極めて珍しい)であるとして反対している。新生銀行はSBIの持ち株比率を下げる「毒薬条項」を用いて防衛をはかる構えだ。それは11月25日に開かれる株主総会次第である。

 

政府の立場も微妙である。新生銀行に対して政府は、預金保険機構整理回収機構を通じて22%の議決権をもつ。これらの機構は、かつて新生銀行を救済した際に生じたものである。政府は株を売ることができない。なぜなら納税者の投資ロスを防ぐためである。それでも、毒薬条項には投票できる。

 

 

承認か拒絶か、もしくは棄権か、政府による改革への意欲がどれほどのものであるかが分かるだろう。株式持ち合いは少なくなっている。Topix100に名を連ねる非金融企業においても、そうした株の持ち方は2013年3月から2020年3月までのあいだで20%近く減少している。買収防衛策を講じている企業の割合も、2012年の19%から昨年は8%に減っている。同期間、社外取締役が一人もいない企業の割合も45%から1%へと減少した。つまり、効果があったということである。日本の会計基準による利益、販売額としての割合はコロナ禍以前に6%にまで達していた。これは1950年代以来、最高の数値であった。

 

改善の余地はある、とBDTI(会社役員育成機構)のNicholas Benesは言う。会社方針の変更などに関する重要な情報の開示が大きな成果を生む可能性がある、と彼は考える。6月にコーポレート・ガバナンス法が改正され、取締役員の技能や経験などを明記しなければならなくなった。同様に、大手上場企業に対しては環境方針などを公開しなければならなくなった。「これは読みづらく、時には暗号のようで、フォーマットもまちまちです」とMr Benesは言う。こうした公開資料を定型化したり、コンピューターで読み込めるようにしたならば、投資家たちが情報にアクセスする手助けになるだろう。

 

厳格な調査によっても成果がえられるだろう。東芝の永山治氏は6月、株主らによって追い出された。経営幹部と経産省が共謀して、大手投資家らに年次総会で経営陣を支持するよう働きかけたのだという。経営再建の努力はしばしば、日本の官僚制度によって泥沼化してしまう。財務省金融庁東京証券取引所法務省などが新たな監督機関の導入強化に取り組んでいる。

 

岸田首相に明快なリーダーシップがあれば、泥沼から抜け出すことができるかもしれない。新生銀行の一件が試金石になるだろう。コーポレート・ガバナンスが改善方向へ向かうのか、それとも旧弊に堕してしまうのか。