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窮地のバイデン大統領 Nov 2021

 

The Economist, Nov 6th 2021

 

Leaders

American politics

One year on

 

窮地のバイデン大統領

 

 

労働に関する2冊の本がジョージ・ワシントンのために書かれた。そのタイトルは「大統領には不可能な任務」。最高に有能な大統領にでさえ失敗の恐れはある、とJeremi Suriは最新の著書「失敗を小さくして善をなす―望みうる最高」で書いている。

 

この悲観的な基準でみても、ジョー・バイデンは沈みかけている。大統領選挙では歴史上最高の得票数(8,000万票以上)を得たにも関わらず、支持率が急落している。大統領一期目のこの時点において、バイデンより支持率が低かったのはトランプ前大統領のみである。民主党バージニア州の3つの重要なポストを失った。一年前、彼はこの州で10%差をつけてトランプに勝っていたのだが。このままでは来年の中間選挙が危ぶまれる。民主党は議会の過半数を割る恐れがある。

 

議会における民主党は、派閥争いに忙しい。年初に巨額の刺激策が通ったものの、ほかの議題は行き詰まったままである(1兆ドルの超党派インフラ案、10年以上にわたる1兆7,000億ドル規模の社会支出案など)。これらの法案が議会を通れば、立法化の段階でさらなるインフラ支出が必要になるだろう。貧困撲滅のための子女税額控除、未就学児への基金、処方箋およびクリーンエネルギーへの税額控除に対するコストの削減などは、新たな生産性向上へ向けた民間投資を促すだろう。こうした支出は有害な税改正とみなされるかもしれないが、有権者らは気にもとめないだろう。

 

 

実際、来年には心が軽くなるかもしれない。コロナの感染者数は9月以来、半減している。さらに失業率が改善し、供給網の滞りが解消し、インフレ率が落ち着けば、今まで苦労してきた生活も楽になるだろう。だが、バイデン大統領にとっての良い知らせはそれで終わりだ。

 

問題のいくつかは固定化したものだ。アメリカの政治は競馬の勝率のように不確かなものではなく、物理法則のようにパターン化している。まず一つ目として、民主党中間選挙議席を失うだろう。下院における民主党の優位は4議席分しかないため、過半数を割り込む恐れがある。そのため、バイデン大統領が何をやろうとしても、立法段階において調整局面に移らざるをえない。それでも、最高裁においては保守派が多数であるため、バイデン大統領はペンと電話でできることがある。

 

来年以降、民主党の未来はますます暗くなる。民主党は大学を出ていない白人グループに人気がないため、地方や郊外などで費用がかさむ。上院と下院の選挙人団を勝ち取るには、過去に例がないほど多数の票が必要になる。同時に、国家機関の改善や、公衆衛生・気候変動・社会的流動性などアメリカの抱える問題を改善しなければならない。このような状況で勝利をつかむには、人智を越えた才能が必要になるだろう。

 

 

バイデン大統領には荷が重すぎる。彼は個人的な困難であれば、立派にこなす。しかし、彼が大統領職を得るまでに30年以上もかかったのには理由がある。民主党における予備選挙有権者は彼の才能を買って票を投じたわけではない。革新主義の旗頭、バーニー・サンダースを阻止するための防衛手段としての意味合いが強かった。

 

バイデン大統領は自らの能力、中道主義、外交経験を売り物にし、むかつくトランプ主義を拒絶している。しかし、アフガニスタンからの撤退は大失敗だった。それまでは左翼と熾烈を極めた文化間戦争を治めていたのだが。インフラや社会支出に関する法案について有権者が何も知らないという事実は、彼の落ち度でもある。子供の貧困は4分の1ほど減ったが、それは彼が通した法案のおかげである。ほとんどの民主党員はそれを知らない。

 

問題はバイデン大統領にだけあるのではない。民主党の左翼および大卒の活動家らは、有権者が人種や政府の役割りについて固定化した観念をもっていると思い込んでいる。バージニア州がその愚かさを証明した。アメリカは若く、多様な国家である。年齢中央値は40歳以下であり、60%が白人と認定されている。有権者は異なる。2014~2018年の中間選挙を例にとれば、75%の有権者が白人であり、年齢中央値は来年53歳になる。民主党は大卒の有権者に対して圧倒的に優位である。しかし、4年制の大学を完了しているアメリカ人は36%に過ぎない。これはじつに心もとない基盤である。一方の共和党は非白人の有権者を取り込みはじめている。

 

 

リチャード・ニクソンが1972年に勝ったとき、新左翼民主党員は「acid(LSDの合法化)、amnesty(徴兵拒否者への恩赦)、abortion(中絶)」というレッテルを張られた。新新左翼はwhite guilt(白人の罪)、cancel culture(キャンセル・カルチャー)、母を出産人と言う人などと戯画化される。そして、FBIを教師を批判した痛みをもつ両親としたがる。

 

こうした口うるさい活動家や少数の過激者は、当たり障りのない民主党議員を選び、党自体が幅広い穏健層を獲得することを難しくしている。彼らは党全体の票の一部を占めるにすぎない。移民の活動家らは副大統領宅の周囲にキャンプを張り、バイデン大統領がトランプ前大統領の国境政策を変えていないと不平をこぼす。対照的に、黒人ジョージ・フロイドが殺害されたミネアポリス民主党支持者は、警察組織を公衆安全なものに代えるために投票しているだけである。

 

過激な左派の要求を実行するという共和党への反論は、バイデン大統領を党の少数派に対してより難しい立場に追いやるだろう。それは彼らの嫌がることをやることを意味するかもしれない。バイデン大統領は殺人率の急増している都市に多くの警察官を配備することもできるし、サンフランシスコの教育委員会に喧嘩を売ることもできるだろう。サンフランシスコではアブラハム・リンカーンが白人優位主義のシンボルとして崇められている。

 

もし民主党が権力を得るために薄汚い企てがあると思っているのなら、共和党で何が起こっているのかに注目すべきだ。グレン・ヤンキンがバージニア州の知事として選出されたことは、トランプ前大統領の共和党でも激戦州で勝利できるということを意味する。2人が争う大統領選挙においては、常にどちらにも勝つチャンスがある。バイデン大統領と民主党はトランプ前大統領が再選しないよう、最大限の努力をするべきだ。なぜなら、失敗つづきのバイデン大統領が優位に立てる場所が、そこにあるからだ。