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リーダーシップなき岸田首相 Nov 2021

 

The Economist, Nov 5th 2021

 

Asia

Japanese politics

Wishy-washy

 

リーダーシップなき岸田首相

 

 

岸田文雄氏が9月の終わりに自民党総裁になったことで、自民党の先行きは暗くなったといえる。前任者菅義偉氏のコロナ対策の不手際から民衆の不満は高まっている。次の衆議院選挙では過半数を割るという世論調査もある。岸田内閣に対する評価は、新首相にしては低い。岸田首相は公明党とともに過半数である233議席以上を確保したことで勝利を宣言した。しかし、前回の与党305議席よりも成績は悪い(公明党を含めて293議席)。

 

岸田首相は用心しすぎた。10月31日に開票されると、自民党は前回より15議席減らしただけで、261議席を確保した。すなわち、自民党単体で過半数を越えていたのであり、国会の常任委員会を仕切れるのである。岸田首相は一安心だ。一方、国民の不満を当てにした野党は大敗北である。最大野党の立憲民主党は13議席を失い、11月2日、枝野幸男党首は辞意を表明した。

 

立憲民主党敗北の原因は、2009~2012年に与党として失態を演じたことがあげられる。加えて、選挙戦略もまずかった。共産党と共闘したことで、多数の選挙区で候補者の調整が行われ、立憲民主党本来の支持者を遠ざけてしまった。さらに、有権者の40%を占める無党派層にも嫌われ、投票率が低調に終わった。最終的な投票率は56%で、戦後最低を記録した2014年の53%、前回の衆院選2017年の54%をわずかに上回っただけだった。

 

 

投票率の低さにも関わらず、選挙結果は現状維持を認めなかった。野党支持の気運は維新の会の躍進にみられた。前回の11議席から41議席へ、3倍以上に増えた。地元関西に支持され、地方政党としては珍しく全国区に躍り出た。

 

新興勢力の力強い台頭の意味するところは、競争力のある対抗馬が現れれば、自民党は見限られるかもしれない、ということだ。ピュー・リサーチ・センターによる最新の国際研究によると、日本は政治・経済・健康保険システムなどで大きな変化、もしくは根本的な改革を国民の半分以上が望む6ヶ国のうちの一つである(残り5ヶ国はアメリカ、フランス、ギリシャ、イタリア、スペイン)。

 

岸田首相は大きな変化を約束している。彼の掲げる「新しい資本主義」という運動は、元首相の安倍晋三氏によるアベノミクスと対比されるものである。しかし、日本のビジネスリーダーはじめ岸田首相の新しい資本主義委員会に至るまで、その意味するところを把握していないようだ。どのような変化を起こすにせよ、おそらくそれほど過激なものではないだろう。

 

 

岸田首相のほかのアジェンダも不透明なままである。岸田首相の国際ステージデビューは、グラスゴーで開催されるCOP26サミットである。アジアにおける脱炭素対策を援助するために100億ドル(約1兆1,000億円)を追加で支出することを約束したものの、2050年までのカーボンニュートラルにむけて日本が何をするのか、ほとんど明らかにされなかった。

 

防御策として、自民党は支出をGDP比2%増やすことを公約にかかげている。しかし、その使い道は判然としない。そして、国民も財務省もその必要性に納得していない。驚くことではないが、岸田首相の勝利を一番喜んでいるのは官僚組織である。かれらは現状を覆しそうにない従順な人物を好む。野党が結束して対抗してくるまでは、自民党の座は安泰であろう。それでも、岸田首相はリーダーとしての姿を示さなければならない。