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アメリカ経済の回復 Nov 2021

 

The Economist, Nov 4th 2021

 

Finance & economics

America’s economy

Inner strength

 

アメリカ経済の回復

 

 

輸送会社hub groupのマネージャーはイリノイ州の本社にいながら、何回かクリックするだけで、8週間後には新たなコンテナ船が中国からアメリカに来ていた。しかし最近は、社長のPhillip Yeagerが頭を悩ませている。ロングビーチの港は大変に混み合っており、長く待たされた海外向けのコンテナ船にようやく出番がきたところだ。しかし、その船にはまだ積み込むコンテナがない。Mr Yeagerのチームは大急ぎでコンテナを探し回っている。ようやくコンテナを見つけたのは丸々一ヶ月も経ってからだった。

 

何千ものコンテナ船がそうであるように、この話はいかに供給網が混乱しているのかを物語っている。とくに、世界最大の消費国であるアメリカがそうだ。これは経済に打撃を与えている横断的な力の一部に過ぎない。財への需要が凄まじいにも関わらず、企業は労働者や供給網の確保がままならない。その結果、賃金と物価は上昇している。そもそもの歪みの原因であったパンデミックからの反動だ(パンデミックは弱化しているものの、完全に消えてはいない)。過去18ヶ月間における異例の財政金融刺激策は引き上げの準備に入っており、さまざまな分野で混乱が起きている。11月3日の会合の末、FRB(連邦準備理事会)は毎月行われていた1,200億ドル(約13兆2,000億円)の国債買い入れプログラムを縮小すると発表した。来年の6月にはすべての買い入れを終了する予定である。

 

これらの要因によって変動幅はまちまちとなり、10月28日に公表された第3四半期のGDPにつながった。GDPの成長率は過去3ヶ月間に比べ年率換算2%の成長となった。なにを基準にするかによるのだが、その反応は最高と最悪の両方だった。2020年末になされた予測に比べ、今年最初の3四半期は見込みよりも3分の1以上成長していた。しかし、エコノミストのなかには第3四半期の成長は実際の3倍以上と期待していたものもいた。

 

 

第4四半期には反動がくるかもしれない。消費者の信頼感は夏にデルタ株が流行したことによって急激に低下した。だが今やデルタ株は下火になり、信頼感も回復した。これからのホリデーシーズンに向けて、買い物と旅行は好調が期待できる。しかし、供給網は多少の改善はみられたものの、依然旧に復さない。Mr Yeagerはより良い「ネットワークの流動性」について語る。電車が定刻に到着し、工場が効率的に操業している状態のことである。バンク・オブ・アメリカのアナリストによれば、今年最後の3ヶ月で年率成長率は6%を超えるという。

 

目先の反動はさておき、回復基調はどれくらいの期間つづくのだろうか。終わりの見える兆候は大きく3つある。労働市場の逼迫、インフレ率の高止まり、早すぎる刺激策の緩和。それぞれが回復を損なわないと考えることもできるし、成長気運は強いままであるかもしれない。

 

過去における最も好ましい経済の発展は、失業率の特筆すべき低下にある。景気後退が終わっても、労働市場が回復するには数年を要する。パンデミックが最高潮にあったときは全てが絶望的であり、失業率は大恐慌以来の14.7%という高さにまで跳ね上がった。それでも、仕事に戻り始めると(必ずしもオフィスではなくとも)、失業率は驚異的に回復した。9月の失業率は4.8%である。

 

 

現在注目すべきは労働者の雇用が企業の課題になっていることである。とく肉体労働者が不足している。これは回復が終わりに向かっていることを意味する。ここが経済の限界である。しかし、余地は残されている。パンデミック以前の労働力の2%、およそ3百万人がいまだ仕事に復帰していない。早期にリタイアした人もいるかもしれないが、その多くは子供の世話やウイルスへの恐れから家に留まっているのである。学校の再開やワクチンによって現在の懸念が解消されれば、そうした人々は徐々に仕事場に戻ってくるだろう。

 

インフレの急騰は回復を妨げる大きな懸念である。アメリカの連邦準備制度が好む指標である個人消費支出価格指数は、9月は前年に比べ4.4%上昇している。ここ30年来、最高の値である。連邦準備制度エコノミストたちは、このインフレは供給網の滞りからくる一時的なものであると考えている。

 

労働市場の逼迫が物事をややこしくしている。第2四半期に比べて第3四半期には賃金が1.5%上昇している。ここ20年で最高の上昇である。看護師や給仕係の賃金が上がるのは歓迎すべきことかもしれないが、賃金の上昇が物価をさらに押し上げる恐れがある。1970年代には賃金と物価が相互に上昇しつづけたことがある。とはいえ、当時と状況は大きく異なる。現在は労働組合が弱く、生計費調整が雇用契約に組み込まれていないことが多い。すなわち、物価と賃金間のつながりは弱いということである。連邦準備制度は物価の上昇はすぐに落ち着くだろうと、必要以上に楽観視しているようだが、そう考える根拠はある。供給網が徐々に平常へと戻り、労働者が戻ってくれば、金利の上昇を強いることなく、インフレ率は後退していくだろう。

 

 

それに関連する最後の懸念は、刺激策の終了である。アメリカの財政赤字は2020年、GDP比15%に達している。第二次大戦以来、最高の水準である。これが苦痛の種となるだろう。来年、2.5%赤字を削減したとしても、それは過去20年間で最大の財政重荷となる、とワシントン州Fiscal and Monetary Policyのthe Hutchins Centreは言う。

 

金融の断崖はそれほど急ではないが、経済にのしかかっている。テーパリングの次の課題は、連邦準備制度がいつ金利を上げるかである。ゴールドマン・サックスは10月29日、最初の利上げは、前回の予想よりも丸1年早い、来年7月になるだろうと言っている。それはインフレ率が上昇をつづけた場合である。

 

刺激策がなくなれば、通常、成長は鈍化する。しかし、他の要因が経済を守ってくれるかもしれない。財への消費はトレンドラインよりも15%高く推移している。それは消費者が休暇やレストランへの支出を控え、家具やエクササイズ自転車、巣ごもり必需品へとお金を使っているからである。しかし、パンデミックが目に見えて収束してくると、人々は再び体験に対して出費するようになるだろう。それが経済の活力となる。サービス産業は支出の80%近くを占めているからだ。

 

刺激策による助けなしでも、支出の気運は高まっている。ウェルズ・ファーゴのJay Brysonは言う、家計のバランスシートの強さがアメリカの成長予測の分析起点となっている、と。可処分所得としての個人債務は、過去最低に近い。企業の在庫も最低水準にある。つまり、必要になれば在庫を積み増せるということだ。「私の知るかぎり、われわれは成長の初期段階にいるということです」とMr Brysonは言う。

 

Mr Yeagerも同じ結論である。小売店が在庫確保に走れば、Hubへの注文もあっという間にいっぱいになるだろう。見込み客のなかには背を向ける者もいるかもしれない。「この強さは来年いっぱい続くと思うし、それ以上つづく可能性もある」と彼は言う。