英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

宇宙から見る太陽光パネル Oct 201

 

The Economist, Oct 27th 2021

 

Science & technology

Renewable energy

A census of solar cells

 

宇宙から見る太陽光パネル

 

 

地球全体のエネルギーシステムを再構築するのは大仕事だ。10月31日からイギリスではじまる予定のCOP26気候会議の代表団に聞いてみるといい。最も基本的な問題は、何を再構築するかを正確に知ることである。学術調査グループ、シンクタンク、慈善団体、その他の関係機関は、世界の風力発電、太陽光設備、化石燃料発電所、セメント工場などを追跡調査しようと尽力している。最終的には各国政府や大企業のデータに頼ることになるのだが、それらは正確でないことも多い。アメリカの太陽光発電の導入状況に関する情報ですら、設置された太陽光パネルの5分の1近くがデータベースに載っていないという。

 

ネイチャー誌に掲載された、オックスフォード大学のLucas Kruitwagenの研究チームの報告では、再生可能エネルギー革命の状況を把握する新たな方法が例示されている。Dr Kruitwagenは同僚とともに世界中の太陽光発電、約69,000箇所をリストアップした(10kw以上の発電能力を有するもの)。前回のデータベースに比べると、4倍以上に増えていた。この新たなデータベースには、設置場所、サービス開始日、大まかな発電能力などが記載されている。

 

チームのとった方法はシンプルである。トップダウンというよりボトムアップの手法であり、宇宙から全地球を俯瞰して、目視できるソーラーパネルの数を数えた。このやり方は初めての方法ではなかったが、それまでの調査では限られた国のみが対象となっていた。Dr Kruitwagenの知るかぎり、全地球規模で特定の設備をカウントしたのは彼が初めてである。もちろん地球は巨大なため、言うは易く行うは難しである。その調査を可能としたのは、2つの偉大なテクノロジーであった。

 

 

1つ目は、大量かつ安価に入手できるようになった衛星画像のおかげである。20世紀までは少数の国だけが、そうした衛星画像を独占していたが、いまでは民間の調査機関や企業が、オープンマーケットで販売するようになっている。Dr KruitwagenはEuropean Space Agency のSentinel-2と、Airbus のspotという2つの衛星の画像を入手した。それらの画像は、可視光線のデータとともに、赤外線・紫外線による可視化画像も含まれていた。Dr Kruitwagenの用いた画像は2016~2018年の期間のものであり、その容量は約550テラバイトである。100台以上のデスクトップパソコンが必要だった。

 

この大量の画像から太陽光パネルを探し出すことは至難の業だ。そこで第2のテクノロジーが役に立つ。Dr Kruitwagenらはマシンラーニングの手法をつかって、太陽光パネルを特定していくことにした。

 

コンピューターによる画像認識は日進月歩の進化を遂げているものの、衛星画像から特定のものを探し出すような既存のソフトウェアは存在しない。マシンラーニングを活用するにはコンピューターをトレーニングする必要がある。たとえば、顔認識のような一般的な用途であれば、既存のトレーニングセットが利用できる。ところが、Dr Kruitwagenの目的を達成するには、みずからトレーニングメニューを組み上げなければならなかった。

 

 

そこで、グーグルマップ同様のオープンソースであるOpenStreetMapを用いることにした。この地図上ではボランティアらの手によって、太陽光発電施設なども大量にタグ付けされていた。しかし、それらは気まぐれなものが多かった。「なんとなく全体をなぞったものもあれば、それぞれのパネルの列を別々に区分けしてあるものもありました」とDr Kruitwagenは言う。そうした不完全さを修正するために、膨大な人力が必要だった。

 

レーニング用のデータが整ってくると、解析の手順も調整されてきた。宇宙から見れば、巨大太陽光設備ですら小さく見える。衛星Sentinelの画像は一ピクセルが10x10メートルである。より解像度の高い衛星spotの場合は、一画1.5メートルである。顔認識や自律運転車で用いられている分類法は、認識範囲にある目的の物体を拡大して表示する。小さなものを探し出すときには、その性能をさらに強化する必要がある。間違えて認識してしまうこともある。たとえば、テニスコートや農業用ハウスなど、宇宙から見ると太陽光パネルに見えてしまう。そうした誤認には修正が必要だ。

 

しかし、Dr Kruitwagenが得た優れたデータも、すでに時代遅れだ。なぜなら解析されたデータは2018年までのものであり、その後、何千という太陽光設備が新たに導入されている。それでも、この手法は役に立つと彼は言う。多大な労力を投下してつくったトレーニングセットは、他の人々にも利用が可能である。論理的には、家庭用の屋根に設置されている太陽光パネルまでをもカウントすることができるだろう。1メートルにも満たないようなパネルを認識するには、ほかの方法では極めて難しい。

 

Dr Kruitwagenによる空に目をむけるアプローチは、その地球規模のプロジェクトにも関わらず、費用は1万5,000ドル(約165万円)程度に済んでいる。この手法は、気候変動に影響をあたえる他の設備、たとえば化石燃料発電所、セメント工場、天然ガスの輸送船を正確に調査できるようにもなるだろう。いずれ、地球上にあるあらゆるエネルギー関連施設の逐一の状況がコンピューターにより把握できるようになるかもしれない。この統計モデルの商業的および学術的価値を抜きにしても、と彼は言う、政治家らに圧力をかけることはできるだろう、と。