英国誌「The Economist」を読む人

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日本のコーポレート・ガバナンス Oct 2021

 

The Economist, Oct 30th 2021

 

Business

Japanese corporate governance

Poison-pill popping

 

日本のコーポレート・ガバナンス

 

 

岸田文雄首相は言明した、安倍晋三元首相によるコーポレート・ガバナンス改革に反対しない、と。企業に対して、社内のマネジメントよりも株主へのリターンを重視させることが、安倍氏の経済改革の肝であった。岸田首相もまた、企業の言いなりではない。賃金を増やす企業に対して減税措置を講じる提案は、自民党マニフェストに盛り込まれている。と同時に、株主よりも利害関係者(顧客や従業員など)が重要であるとも言及されている。日本の株主資本主義を考えるとき、このままでは不十分であると言わざるをえない。

 

岸田首相の企業に対する姿勢は、次の一件でもより明確になるだろう。SBIホールディングスは9月、新生銀行の持ち株比率を20%から48%へと高めた。SBIは買収などによってメガバンクになる野心がある。日本に多数存在する小さな銀行が合併されていくことは、ある種、コーポレート・ガバナンス改革の一環ともいえる。新生銀行はSBIの申し出を敵対的買収(日本では極めて珍しい)であるとして反対している。新生銀行はSBIの持ち株比率を下げる「毒薬条項」を用いて防衛をはかる構えだ。それは11月25日に開かれる株主総会次第である。

 

政府の立場も微妙である。新生銀行に対して政府は、預金保険機構整理回収機構を通じて22%の議決権をもつ。これらの機構は、かつて新生銀行を救済した際に生じたものである。政府は株を売ることができない。なぜなら納税者の投資ロスを防ぐためである。それでも、毒薬条項には投票できる。

 

 

承認か拒絶か、もしくは棄権か、政府による改革への意欲がどれほどのものであるかが分かるだろう。株式持ち合いは少なくなっている。Topix100に名を連ねる非金融企業においても、そうした株の持ち方は2013年3月から2020年3月までのあいだで20%近く減少している。買収防衛策を講じている企業の割合も、2012年の19%から昨年は8%に減っている。同期間、社外取締役が一人もいない企業の割合も45%から1%へと減少した。つまり、効果があったということである。日本の会計基準による利益、販売額としての割合はコロナ禍以前に6%にまで達していた。これは1950年代以来、最高の数値であった。

 

改善の余地はある、とBDTI(会社役員育成機構)のNicholas Benesは言う。会社方針の変更などに関する重要な情報の開示が大きな成果を生む可能性がある、と彼は考える。6月にコーポレート・ガバナンス法が改正され、取締役員の技能や経験などを明記しなければならなくなった。同様に、大手上場企業に対しては環境方針などを公開しなければならなくなった。「これは読みづらく、時には暗号のようで、フォーマットもまちまちです」とMr Benesは言う。こうした公開資料を定型化したり、コンピューターで読み込めるようにしたならば、投資家たちが情報にアクセスする手助けになるだろう。

 

厳格な調査によっても成果がえられるだろう。東芝の永山治氏は6月、株主らによって追い出された。経営幹部と経産省が共謀して、大手投資家らに年次総会で経営陣を支持するよう働きかけたのだという。経営再建の努力はしばしば、日本の官僚制度によって泥沼化してしまう。財務省金融庁東京証券取引所法務省などが新たな監督機関の導入強化に取り組んでいる。

 

岸田首相に明快なリーダーシップがあれば、泥沼から抜け出すことができるかもしれない。新生銀行の一件が試金石になるだろう。コーポレート・ガバナンスが改善方向へ向かうのか、それとも旧弊に堕してしまうのか。