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菅総理の後釜をめぐって Sep 2021

 

The Economist, 11th Sep 2021

 

Asia

Japanese politics

September surprise

 

菅総理の後釜をめぐって

 

 

日本の総理大臣、菅義偉はつい9月2日までは続投の意思があった。しかしその翌日、自民党幹部らと会議室から姿を現したとき、菅首相は悄然としていた。彼の支持率は低迷したままで、党内の支持も空洞化しつつあった。そして菅総理は、次の総裁選における不出馬を表明するにいたる。菅首相の豹変は、未来の日本政治をになうべきの自民党を揺るがした。9月29日には自民党の総裁選挙がおこなわれる。その勝者は次期総理大臣となり、11月に予定されている衆議院選挙を戦うことになる。

 

自民党の総裁選には、いまのところ4名が有力であろう。元外務大臣岸田文雄。党内では人気だが、大衆のウケはそこそこ。元外務および防衛大臣河野太郎。現ワクチン担当大臣で、SNSが得意。まだ58歳と、日本の政界では若年。大衆には人気があるも、党内では一匹オオカミ的存在。元総務大臣高市早苗。ほとんど無名だが、自民右翼、期待の新星。元防衛大臣石破茂も参戦するかもしれない。彼は国民に支持されるも、党内では限定的。

 

 

これら4人とも政策面では抜本的な改革(radical change)を求めていない。親アメリカであり、中国の拡大主義に対しては日本の防衛力強化を望んでいる。日銀の金融緩和を止めるつもりもないし、金融引き締めも望んでいない。もちろん4者それぞれに違いはある。中国との関係はどうするのか、景気刺激策をいかに縮小していくか、エネルギー政策はどうするか、コロナ対策は、などなど。大きな違いは世代的で、表面的なものである。岸田氏は目新しさのない古いタイプの人間であり、河野氏は独立心強くカリスマ的であり、高市氏は国家主義の煽動者である。

 

世論調査によれば、河野氏が最有力である。しかし、自民党の選挙は国民が投票するわけではない。最初の投票は、国会議員383名と110万人の党員を代表する383票によって決められる。もし過半数を獲得する候補がいなければ(よくあることだが)、上位2名が決選投票によって決着をつける(国会議員の票がより重視される)。決選投票は党派グループごとになりがちだが、若手議員は長老たちの選択に納得のいかないこともある。

 

 

レースの結果は、密室による談合(backroom wheeling and dealing)か、超党派の駆け引き(inter-factional horse-trading)によるところが大きい。しかし同時に、次の衆院選において誰をリーダーに戦うべきか、そして、若手議員(河野氏びいきが多い)をいかに取り込むかにもかかっている。自民党の古株である岸田氏ならば、妥当な選択である。高市氏は靖国参拝の常連であるから、右翼票を集めることになるだろう。もし石破氏もはいってくるなら、レースをひっくり返されるかもしれないし、そうでなくとも誰か一人を強力に後押しする可能性もある。

 

菅首相の前任者、安倍氏は8年間首相を務めたが、それ以前は6年間で6人の総理大臣が交代している。今回の菅首相の短い在位は、過去の混乱と同様のリスクをはらむ。しかしながら、新たな時代への扉をひらく可能性もある。菅氏の突然の退陣(abrupt resignation)のなかで確実なことは、不確実性だけだろう。