英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

自民党、4人の候補 Sep 2021

 

The Economist, Sep 23rd 2021

 

Asia

Democracy in Japan

Going round in circles

 

自民党、4人の候補

 

 

自民党という巨大なテントの、それぞれ異なるコーナーから4人の候補者が出そろった。高市早苗は女性初の総理大臣を狙う国家主義者だが、夫婦別姓には反対している。河野太郎アメリカで教育を受けた政治家ファミリーの御曹司で、同性婚再生可能エネルギーを支持している。岸田文雄は広島出身の生え抜きで、資本主義の新たな形を模索している。野田聖子は障害をもった息子をもち、社会的弱者の味方を自認している。

 

自民党という旧弊な党にしては、おもしろい顔ぶれである。そしてまた、結果も見えない。若手議員らの反抗から、各派閥の長らは自由に投票させることにしている。現総理大臣の菅義偉氏が選出されたときには、各派閥があらかじめ投票先を菅氏に決めていたのだが、今回の場合、9月29日の開票まで結果は誰にもわからない。

 

 

日本の政治にしては盛り上がっているこの総裁選は、この国の抱える民主主義に対する根深い不安を一時的にしろ忘れさせてくれる。欧米各国が悩まされているポピュリズムと機能不全を、日本は免れている。しかし、その安定は現状に満足している結果ではない。「われわれの民主主義は危機に直面している。国民の政治に対する信頼は失われている」と、元外務大臣の岸田氏は、総裁選に出馬する際に語っている。

 

無関心が慢性化しつつある。投票率は急落している。ピュー・リサーチ・センターによれば、2018年、日本人の62%が投票で政治は変わらないと思っている。今年の調査では、自民党の支持率38%よりも、「支持なし」が41%と上回っている。野党、立憲民主党は7%にとどまっている。野党の根本的な弱さは、慶應義塾大学の曽根泰教氏によれば、自民党総裁選はリアルなゲームであり、(11月に行われるであろう)総選挙ではない、ということだ。

 

 

自民党は1955年の設立以来、日本政治に君臨してきた。何十年間もその支配は途切れなかった。学者らは「異質な民主主義」と呼んでいる。一党支配といえども、内実は込み入っており、自民党内に多数存在する派閥が、それぞれ党のように振る舞っている。また、日本の左派は、政府のお目付け役となっている。

 

1993年、自民党は初めて野党に転落し、自民党離脱者らが連立政権を樹立した。新政権は党内の競争を促すべく、選挙制度を改良した。この政権はすぐに霧消したが、つづいて起こった民主党が、中道左派として競争力を高めた。そして2009年、民主党自民党にとってかわり、二大政党の幕開けを告げるかに思われた。

 

 

しかしながら、民主党は事務にもたつき有権者から疎んじられ、官僚らは苛立ち、同盟国アメリカを怒らせた。さらに悪いことに2011年、東日本を大震災がおそい、破壊的な津波と、福島第一原発メルトダウンが起こった。民主党のまずい危機対応は、政権交代に対して有権者らを用心深くさせてしまった。

 

民主党は2012年、自民党に敗れ瓦解した。以来、公明党と連立した自民党は、過去6回の国政選挙を勝ちつづけ、参議院衆議院ともに強固な支配を確立している。民主党の残党は2017年、立憲民主党を結成したが、いまだ重要課題に取り組めるほどの力はない。衆議院議席数は、自民党275に対して、立憲民主党は113議席にとどまる。

 

 

パンデミック対応における自民党の不手際は、野党に付け入るスキを与えたといえる。日本の有権者は、不満の爆発によって一斉蜂起してきた歴史をもっている。今年の地方選挙ではそれが繰り返された。最近では8月、横浜市長選挙において、菅首相の推す候補者が敗れ、対立候補に軍配が上がった。夏が過ぎると、圧倒的多数の地位に陰りを感じる党員もでてきた。権力の場にとどまるには、連立相手を増やさなければならないかもしれない。「ぞっとする」と、ある自民党員は言う。

 

先月、人気を失った菅首相が辞意を表明すると、自民党は国民を落ち着かせることになると期待した。国民は政治に不満があるとはいえ、急激な変化に対してはなお慎重である。菅首相が在位にあるうちは、野党も勢力を拡大する期待をもっていたが、いまやメディアの気をひこうと躍起である。菅首相の退陣が決まってから、自民党の支持率はある調査で10%上昇した。東京市場は、新首相への期待から、プライスを上げている。

 

 

河野氏は元外務および防衛大臣で、現在はワクチン担当相であるが、現在最有力候補といえる。大衆の支持も厚い。一匹オオカミの彼ならば、凝り固まった自民党に新風を吹かせることができるかもしれない、と若手議員も期待している。

 

しかし、河野氏でさえ自民党政治の現実に直面せざるをえない。総裁選への立候補を表明した記者会見において、河野氏原子力発電への反対と、女性天皇の容認に対して軟化せざるをえなかった。この2点は河野氏の思想における肝だったにもかかわらず。自民党の長老らは、それでも河野氏を警戒している。むしろ、より柔軟性をもつ岸田氏のほうが好ましいと考えている。

 

 

自民党総裁選の最初の投票において、国会議員と自民党員は同等の票数をもつ(383票:383票)。河野氏が勝つ可能性が高いのは、この段階で過半数の票数を得ることである。なぜなら、決選投票まで持ち込まれてしまうと、国会議員の票がより大きな比重を占めてしまうからである(383票:47票)。決選投票の勝敗を左右するのは、権力闘争であり党内抗争である。岸田氏は2番手の位置にありながら、決選投票になると勝つ可能性がでてくる。高市氏の勝つ見込みは薄く、野田氏はまったくない。

 

勝利者の最初の仕事は、衆院選に勝つことだ。自民党がいくつかの議席を失ったとしても、菅政権が続投する以上に失うことはないだろう。しかし、自民党の次期リーダーが国民の支持を得られなければ、菅政権より短命に終わってしまうかもしれない。来年の夏には、有権者のもう一つの審判がくだる参院選もまっている。