英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

固形電池 Sep 2021

 

The Economist, Sep 23rd 2021

 

Business

Technology in Japan

Do me a solid

 

固形電池

 

 

日本の化学者、吉野彰氏は1980年代にポータブル機器用にバッテリーの研究をすすめていた。そして、リチウムイオン電池は初の商用化に至り、ノーベル賞の受賞につながった。現在、リチウムイオン電池スマートフォンから電気自動車まで、あらゆるシーンで活用されている。吉野氏の業績もあって、リチウムイオン業界では日本企業が強みをもっていた。だが、その優位性はいまや失われてしまった。中国のバッテリー企業CATLや韓国のLGなどが、電気自動車のバッテリーにおいて日本のパナソニックを上回っている。他企業もまた、素材や部品などの生産において追いついてきている。

 

日本のバッテリーメーカーは、業界内で然るべき地位を取り戻したいと考えている。そのためには、固体電池に賭けるほかない。充電池の仕組みは、充電と放電の際に電解質の中の陽極と陰極をリチウムイオンが行ったり来たりするわけだが、固体電池ではその電解質に、液体ではなく固体が用いられている。固体の電解質のほうが、安定的かつパワフルである。急速充電においても、おおげさな冷却装備の必要がない。電気自動車に固形電池を使えば車体を軽くできる分、走行距離も伸びる。

 

 

日本はバッテリー技術の特許を、他国よりも多く申請している(2番手の韓国より2倍も多い)。2014~2018年の固体電池に関する特許の50%以上を日本企業および発明家が占めている(数はさらに増えている)。日本政府も研究に対して資金拠出を惜しまない(もちろん吉野氏率いる研究所にも)。日本には工業系、化学系の企業が多数あり、新技術を市場に送り込むため、原材料の供給を加速させている。

 

村田製作所2017年、ソニーのバッテリー部門を買収した。そして今秋にも小型の固形電池の大量生産を開始しようとしている。社長の中島規巨(なかじま・のりお)氏は「ウェアラブル(身体装着タイプ)には大きな可能性があります」と言う。固形バッテリーならば熱くなったり燃え上がったりはしない(ペースメーカーなどに用いられている)。トヨタは今月、固形電池を含む次世代型カーバッテリーに、2030年まで135億ドル(約15,000億円)を投資すると発表している。ホンダと日産もまた、こうした技術に着目している。

 

 

固形バッテリーの生産が容易ならば当然、メーカーも大量生産できるのだろうが、そうではない。その素材が水分を嫌うため、工場内を極度に乾燥させておかなければならない。三井金属は固形電解質のテストを繰り返したが、そのプロジェクトに関わったTakahashi Tsukasaは「実現は極めて難しい」と語る。トヨタ2020年半ばまでに生産を開始したいと考えているが、技術主任のMaeda Masahikoは「いまだ楽観はゆるされない」と言っている。

 

たとえ然るべき製造技術を手にしたとしても、日本企業がこの分野を独占できるわけではない。それはリチウムイオン電池のときと同じである。世界の巨大カーメーカー(フォード、ヒュンダイフォルクスワーゲンなど)も固形バッテリーカーの開発に着手しており、自前でバッテリーを造ろうとしている。フォルクスワーゲンアメリカの固形バッテリー企業QuantumScapeビル・ゲイツに支援をうけているスタートアップ)と手を組んだ。イギリスでは先月、化学企業Johnson Mattheyとオックスフォード大学が提携して、技術開発をはじめている。

 

なんともガチガチな戦いになりそうだ。