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オーストラリア、感染ゼロの限界 Aug 2021

 

The Economist, Aug 28th 2021

 

Asia

Australia’s pandemic

Covid how much?

 

オーストラリア、感染ゼロの限界

 

 

8月23日、オーストラリアのScott Morrison大統領は言った。「このままでは、この国に住めなくなってしまう」と。彼は、コロナ・ウイルスへの対策を、大きく変えようとしているのだ。

 

これまでのオーストラリアは「コビッド・ゼロ(covid zero)」と称し、あらゆる手段つかって、ウイルスを完全に撲滅しようとしてきた。しかし、いまや感染者数は増加し、病院もいっぱいだ。そこで、成人の80%がワクチンを接種を終えたら、これまでの制限を解除しようという計画に切り替えた。おそらく年末までには、そうできるだろう。

 

 

パンデミックがはじまった頃、オーストラリア、ニュージーランドなど太平洋の国々は、国境を閉鎖して、隔離用のホテル(quarantine hotelを準備した。ワクチンができるまでコロナウイルスを締め出しておくためだ。国外には3万人以上のオーストラリア人がいたが、毎月決まった人数の入国しか許可されなかった。そのため、帰国を待つ長い列ができた。インドで感染し、帰国できぬまま亡くなってしまった人もいた。

 

2020年時点、オーストラリアでは普通の生活ができていた。学校はじめ、レストラン、映画館なども通常通り営業しており、マスクも必要なかった。コロナウイルスが検疫をすり抜けてしまった時には、感染経路を緻密に追跡することによって、感染爆発(big outbreak)を防いでいた。8月25日までの、オーストラリアにおけるコロナウイルスによる死亡者は、100万人あたり39名だった(ヨーロッパは100万人あたり1,700名)。

 

 

ところが、極めて感染力の強いデルタ株がこの春、世界中に拡散した。その結果、オーストラリアにおけるゼロ感染の努力が限界をむかえてしまった。「もはや個人レベルでは感染を防げません。システムそのものが破壊されてしまったのです」と、ディーキン大学(メルボルン)のCatherine Bennettは言う。デルタ株はあまりにも速く広がってしまうため、感染経路の追跡を30時間以内にはじめたとしても、すでに次の感染者が発生してしまっている、とDr Bennettは言う。

 

デルタ株の大流行を抑えるためには、サーキット・ブレーカー(circuit-breaker)と呼ばれる短期間のロックダウンしか手がない。しかし、感染が広まるほどに、今度は「ロックダウンの大流行(epidemic)」につながる恐れがある。半数以上のオーストラリア人は7月以降、すでに一度かそれ以上のロックダウンを経験している。メルボルンはすでに200日以上ロックダウンしている。そのため、いまやゼロ感染はあきらめざるをえず、できるだけ死者をださないようするので精一杯だ。

 

 

感染者数の増加は、オーストラリア人がいかに早くワクチンを接種を完了できるかにかかっている。現在およそ25%がワクチンの接種を終えているが、アメリカやヨーロッパの50~60%に比べると少ない。残念ながら、オーストラリアで自然免疫を獲得している人はほとんどいない。オーストラリアでワクチン接種がすすまないのは、ワクチン供給が遅れているからだ。大量に発注してあったワクチンは、たとえばアストラゼネカ製などが治験(clinical trial)をクリアできなかった。国中に配布されるはずだった4万のワクチンにも、なにかしらの問題が生じている。それでもワクチン接種完了者は、この1週間で加速度的に増えている。

 

ゼロ感染を目指してきた他の国々も、オーストラリアと同じような苦境(predicament)に陥っている。ニュージーランドでは2020年4月以来最高の感染者数がでたことによって、全土をロックダウンしている。ベトナムでは、感染経路の追跡がきわめて好調だったのだが、デルタ株によって台無しになった。4月までのベトナムにおける新規感染者数は常に一桁だったのが、いまや1万人を超えてしまっている。

 

ゼロ感染に取り組んできた国々は、これまでのところ実にうまくやっていた。しかしながら、この大詰め(final stretch)にきて、最大の試練をむかえている。