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シンガポール、なりたての大人たち Aug 2021

 

The Economist, Aug 28th 2021

 

Asia

Singapore

More young people flying the nest

 

シンガポール、なりたての大人たち

 

 

ある意味、シンガポールは一人者の天国(singleton’s paradise)だ。家賃を払う必要がなく、忠実な家政婦(doting servants)にも、お金の代わりにハグするだけ。なぜ、こんな快適な生活(cushy lifestyle)が送れるのかといえば、両親と一緒に住んでいるからだ。30代のシンガポール人は、だいたいこうだ。家族に重きをおく政府の方針でもある。

 

住宅政策もまた、若者がエプロンを外すのを難しくしている、とシンガポール大学のWei-Jun Jean Yeungは言う。およそ80%のシンガポール人が、補助された公営の住宅(subsidised public housing)に住んでいる。彼らは結婚するか、35歳になるまでは、自分のアパートに住むことができない。

 

 

しかし、この過保護国(the nanny state)に反抗する若者たちも少数ながら増えてきている。1990~2020年の30年間で、一人暮らしか家族以外と生活する35歳以下が、3万3,400人から5万1,300に増加した。当然、彼らは公営の住宅(public housing)に住むことはできないので、民間の住居を借りなければならない。それはかつて海外居住者(expats)に限って認められていたことだが、いまやそうではない。不動産会社CP Residencesによれば、シンガポール人の賃借人は、2014~2019年までの平均90人から、今年は658人に急増しているという。Cove社の場合は、2019年の10人から現在142人に増えたが、そのうちの83%が21~40歳である。

 

これらの原因の一つは、シンガポール人の晩婚化だ。1980年の結婚平均年齢は、男性27歳、女性24歳だったが、現在では男性30歳、女性29歳となっている。また、結婚をしないという人も増えている。同性婚(same-sex marriage)を認めないシンガポールでは、結婚したくてもできない人々もいる。

 

 

このコロナ禍も、若者を巣穴(nest)から追い立てている。ウイルス騒動以前、25歳の弁護士Serene Cheeは、家族と暮らすことに違和感を感じていなかったが、在宅勤務を強いられるようになってからは「生活が息苦しすぎる」と思うようになった。それ以来、友達とアパート暮らしをはじめている。

 

一人暮らしにも慣れてくる。28歳のイラストレーターLydia Yangは3ヶ月前、勇気をだして一人暮らしをはじめた。そして、家賃の支払いや日常の雑務も自分でできるようになった。23歳の写真家のLenne Chaiは7年前、料理もつくれなかった。「なんとかつくれたのはMaggie Mee(インスタント麺)だけ」。Ms Yeungは言う、「なりたての大人(emerging adult)たちは、最初からうまくやっているわけではない」。31歳の公務員(civil servant)の妻である彼女は、ようやく洗濯もするようになったし、クローゼットを色分けして(colour-codes)整理するようにもなった。

 

 

しかし、一人の生活には寂しさもある。Ms Yangは「うつ気味」と、ロックダウンのときには感じていた。それでも、両親と離れて暮らすことで、お互いの関係は変わった。Ms Yang も Ms Chaiも、家を出てからのほうが両親と仲良くなっているという。家に閉じこもっていた頃は、お互いに口もきかなかったが、今はたまに会うと「充実した時間(quality time)」を過ごすことができる、とMs Chaiは言う。

 

Ms Cheeの両親が最近、娘のアパートを訪ねたとき、その小綺麗さにおどろいた。「親は子供のことを、いつまでも子供だと思っているから」と彼女は言う。子供たちが一人で暮らせるようになったとき、親たちは「やっぱり、やればできるのね」と、ようやく納得するのである。