英国誌「The Economist」を読む人

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冴えない総裁選 Oct 2021

 

The Economist, Oct 2nd 2021

 

Leaders

Japanese politics

Uninspired

 

冴えない総裁選

 

 

「最悪のシナリオは避けられた」。これは、9月29日に行われた選挙において、岸田文雄自民党総裁に選ばれたことに対する、ツイッターで話題になったハシュタグの一つだ。右派にとっての最悪は河野太郎であった。独立独歩の彼は国民に受けが良いので、第一回目の投票で過半数を獲得する可能性があった。しかし、自民党にとってはリベラルすぎた(党名に自由を冠するものの、実際は保守的である)。また、リベラル派にとっての最悪は、国粋主義の煽動者、高市早苗であった。

 

岸田氏の勝利を決定づけたのは、その当たり障りのなさであった。現状維持を愛する自民党らしい選択である。岸田氏はボートを揺らすこともなければ、波風を起こすこともない。

 

 

現状維持は、総裁選において最も重視されるポイントであった。昨年、健康不安を理由に辞任した安倍晋三氏しかり、退陣を表明した菅義偉氏しかり、前任者らは一様に安全策に終始している。しかし、菅首相の冴えないコロナ対策に、国民は反感を高めた。このまま11月の衆院選にのぞめば、屈辱的な敗北が待っていたかもしれない。だが、9月3日に辞意を表明し、少し若い岸田氏の登場となった。それでも、衆院選は苦戦するだろう。しかし、大敗だけは避けられるかもしれない。自民党にとってはそれで十分だ。

 

そうではないだろう。日本は民主主義にとって最悪の病である、ポピュリズムと極端な党派争いには冒されていない。しかし、与党が談合でリーダーを選ぶようになったら、その症状が現れはじめているといってよい。なぜなら、野党は頼りなく、自民党が次の選挙で政権を失う可能性はほとんどないからである。そのため、自民党内での争いが、そのまま国政選挙の代わりとなってしまう。総裁選の決選投票においては、数百の現職国会議員がほぼ党派別に投票し、一般党員は置き去りにされてしまった。国政選挙の投票率は、2009年の69%から、2017年には54%に落ち込んでいる。岸田氏を当選させた投票方式は、国民の幻滅を深めただけだった。

 

 

誰が日本を率いるのか、それが問題だ。日本は1億2,600万人を擁する、世界第3位の経済大国である。G7およびQUAD(四カ国戦略対話、アメリカ・オーストラリア・インド・日本)のメンバーで、CPTTP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定、中国・台湾も参加)では議長役を務め、アメリカの代わりに自由貿易を支持している。しかしながら、強力な首相なくして、国際舞台におけるリーダーシップを発揮するのは極めて困難である。

 

今週の総裁選は、日本の未来にとっては悪い兆候だ。日本は安定した平和のなかで繁栄している。しかし、ほかの先進民主国に比べて高齢化が進行しており、労働力は縮小している。年金福祉のコストはかさむばかりだ。日本の新しいリーダーは大胆なアイディアをもって、こうした課題に取り組んでいかなければならない(たとえば、女性に優しい職場をつくって、生産性を向上させるなど)。さらに、そうしたアイディアを国民に納得させるだけのカリスマ性も必要である。菅首相の2つの政策に対しては厳しい選択を迫られるだろう。一つは、日本の古びた官僚制度を刷新すること、もう一つは、2050年までに排出量ゼロを成し遂げる現実的なプランを練ることである。すべてを成すには、相当な胆力が要求される。しかしながら、自民党の各派閥になびく、打算的な岸田氏に、それがあるとは思えない。

 

人口動態と社会変化のペースを考えれば、日本政府にもたついている暇はない。岸田氏は政権の座についた途端に、厳しい現実にさらされるであろう。名もなき首相連中の仲間入りをする可能性も高い。それが今回の総裁選の最悪の結果だろう。日本はもっと上を目指せるはずなのに。