英国誌「The Economist」を読む人

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メキシコの輸出農業 Sep 2021

 

The Economist, Sep 18th 2021

 

The Americas

Agriculture in Mexico

Reaping the rewards of trade

 

メキシコの輸出農業

 

 

Román juárezは15年前にトマトをつくりはじめ、いまや農場は数倍に拡大している。メキシコシティの南東部、プエブロ州の郊外に2つの農場がある。巨大なハウスのようなテントで栽培される3万8,000株のトマトは、最盛期に一株160個のトマトの実をつける。もちろん、農業にはリスクがともなう。Juárezが成功できたのは、2016年にアメリカへの輸出をはじめたからだ。彼は言う、「ビジネスの通用するところでしかビジネスはできない」と。

 

メキシコは今年、史上最高となる1,800万トンのトマトをアメリカへ輸出すると見込まれている。昨年、トマトの輸出だけで23億ドル(約2,530億円)の利益をあげている。トマトこそが、現在の潮流の最好例である。メキシコの農産物輸出額は昨年、395億ドル(約4兆3,450億円)で、国全体の輸出の10%におよぶ。メキシコの農業はGDPの4%を占め、昨年2%の成長を遂げた。メキシコ経済全体では8.5%のマイナスだったにもかかわらず。

 

 

メキシコの食料品輸出の歴史は何世紀にもおよぶ。ここ最近の好調は、1995年に発効したNAFTA北米自由貿易協定、現USMCA)によるところが大きい。1995年当時のメキシコのトマト輸出額は4億600万ドル(約446億6,000万円)にすぎず、メキシコ農業はかつて「醜いアヒルの子(the ugly duckling)」であった、と生産者を代表する国際農業協会のJuan Cortinaは言う。

 

2つの変化があった。一つは調理の需要が変化した。「アメリカ人はいまや、シーズンだけでなく通年収穫できる農産物を求めている」とカリフォルニア大学デービス校のPhilip Martinは言う。メキシコはその温暖な気候のおかげで、アメリカでは生産できない時期でも生産が可能であり、カリフォルニアやフロリダよりも大量に生産できる。さらにメキシコの農家はアメリカ企業と提携して、農作物の栽培方法を強化した。かつて露地で栽培されていた作物も、トンネルハウスなどを用いることにより病害虫を減らし、生産量を増加させた。

 

 

しかし、道のりは単純ではなかった。メキシコの輸出量が増えると、アメリカの農家は怒りをつのらせ、政府に不公平なほどの援助を求めた。そして、トランプ政権のもとUSMCAの交渉において、季節の果物と野菜に保護的な関税(defensive tariff)をかけようとした。それは失敗におわったものの、今度はアメリカ国際貿易委員会に対して、イチゴ・ピーマン・カボチャの輸入を調査するよう依頼した。

 

トマトも騒動に巻き込まれた。1996年、NAFTAによるトマトの関税の期限が切れる前に、米国商務省はメキシコのトマト農家に対して商品が安すぎないか、調査を開始した。そして、メキシコの輸出農家に対して最低価格を同意させた。最近では2019年にも議論がおこなわれている。

 

 

交易関係を穏便に維持することのほかにも、農業を発展させるためにできることはある。たとえば潅水システムの改善など、新たな技術は農家を利することになるだろう。チャピンゴ自治大学のAurelio Bastidaはこう言う、農業を環境と調和させるための政策が必要だ、と。メキシコの農業は環境変化に対して脆弱である。すでに深刻な水不足(water shortage)も発生している。輸出農家がうまくやっている一方で、多くの農家は国内市場で苦戦を強いられている。

 

もしも農業が拡大していくのなら、メキシコはアメリカのほかにも輸出先を見つけなければならない。それは難しくないだろう。なぜならメキシコは他国よりも多くの自由貿易協定に参加しているからだ。

 

しかし、Andrés Manuel López Obrador大統領の政策は、まるで1970年代に逆戻りしたいかのようで、将来の芽をつむ危険がある。昨年、輸出には必須の、食品の安全を認証する機関に対する投資をカットした。こうした非生産的な吝嗇は、輸出農業を花咲かせるというよりも、萎れさせるものであろう。