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ナイジェリアの闇 Oct 2021

 

The Economist, Oct 23rd 2021

 

Leaders

Nigeria

The crime scene at the heart of Africa

 

ナイジェリアの闇

 

 

60数年前、ナイジェリアの独立は間近であった。しかし、このアフリカ最大の国をいかに統治していくのか、確信はもてていなかった。宗主国であったイギリスが引いた国境線の中には、250以上の民族が暮らしていた。当時の政治家であったObafemi Awolowoは嘆いた、「ナイジェリアは国家とはいえない。地政学上の産物にすぎない」と。まるで19世紀のMetternichのように。

 

独立当初は、彼の嘆きそのままだった。クーデターにつぐクーデター、民族の大虐殺は内戦に火をつけ、100万人の命が失われた。南東部のビアフラが分離独立を図るも、無残に失敗。軍によるナイジェリアの支配は1999年までつづいた。この不穏なスタートにもめげず、今のナイジェリアはエネルギーに満ちている。サハラ砂漠以南のアフリカでは6世帯に一つがナイジェリアに住んでいる。ナイジェリアは大陸一破天荒な民主国家である。アフリカ最大の経済は、大陸のGDPの4分の1を稼ぎだす。ナイジェリアの映画産業Nollywoodは、インドのBollywoodを除けば、どの国よりも多くのタイトルを生み出している。サハラ以南のアフリカには4つのユニコーン時価総額10億ドル、約1,100億円以上のスタートアップ企業)が存在するが、そのうちの3つがナイジェリアから生まれた。

 

では、なぜナイジェリアの若者が国を出たがるのか。理由の一つは恐怖である。北東部ではイスラム聖戦士がカリフによる支配を確立しており、北西部ではギャングによる誘拐が横行している。産油地帯である南東部では、ビアフラの独立気運が再燃している。暴力におびえるのは、ナイジェリア国民2億人だけではない。近隣国家全体の安定がおびやかされている。

 

 

ナイジェリアに無関心な読者は、軽く聞くかもしれない、what’s new? と。ナイジェリアでは数十年間、腐敗と混乱がつづいている。最近の変化といえば、イスラム聖戦、組織化された犯罪、政治的暴力などが激しさをまして国中に広がっており、統治不能にむかいつつある。2021年、最初の9ヶ月で8,000万人がさまざまな紛争で命を失っている。何百、何千という人々がそうした闘争に起因する飢餓や病気で亡くなっている。200万人以上が国を離れざるをえなかった。

 

北東部におけるジハーディストの恐怖は各所に飛び火している。少女誘拐で悪名高いボコ・ハラムは数年前までベルギーほどの土地を支配しているだけだったが、いまや凶暴かつ有能なイスラム国と手を結び、ナイジェリア最大の危険組織となっている。南東部においては、民族意識が煽り立てられ、イボ人らは石油とともに国を去ろうとしている。この地域の石油はナイジェリア政府の収入のおよそ半分を占める。Muhammadu Buhari大統領はビアフラの分離独立に対して、半世紀前のような暴力をほのめかしている。

 

ナイジェリア全体において政府の権威と安全保障が保たれておらず、犯罪組織はやりたい放題である。今年にはいって、この9ヶ月間で2,200人が身代金目的の誘拐にあっている。2020年の倍の件数である。百万人あまりの子供たちは、恐ろしさのために学校に行けていない。

 

 

ナイジェリアの不安定さには2つの原因がある。病んだ経済と駄目な政府である。低成長と2度の景気後退によって、ナイジェリアは貧しくなった。石油価格が下落した2015年以来ずっとである。パンデミック以前、国民の40%が最貧ラインである一日1ドルを下回っていた。もしナイジェリアの36の州がそれぞれ独立国であったら、その3分の1は世界銀行の低所得国(一人当たり1,045ドル以下)に分類されることになる。経済停滞と貧困が相まって、内戦勃発のリスクが高まりつつある。

 

経済問題は政府の無能さと強引さに起因する。2015年に選出されたMr Buhariだが、オイルショックの際に通貨ナイラにテコ入れし、国内需要を高める目的で輸入の多くを禁止した。その結果、景気後退入りし、食料品の価格が20%以上もインフレしてしまった。政治腐敗を抑えることもできず、国民の不満は高まった。国民の多くは、石油収入の分け前にあずかっていないと怒っている。無駄遣いされているか、盗まれているとしか思えない。政治家たちはその責任を多民族もしくは他宗教に転嫁し、誰かが公正な分配以上に搾取していると非難している。その手法で票は集まるのだが、ナイジェリアはより危険な状態になっていく。

 

暴力沙汰が起きると、政府は何もしないか、無差別に弾圧する。ナイジェリアの軍隊は書類上では一流であるが、兵士の多くは名簿に名前があるだけの幽霊状態である。装備のほとんどは盗まれるか、反乱軍に売り飛ばされている。ナイジェリアのすべての州に配備されてはいるが、人数不足でスカスカな状態である。警官も人員が足りず、やる気もなく訓練もしていない。給料の低さから、守るべき民間人から強奪する始末である。

 

 

法なき状態に歯止めをかけるには、まずはナイジェリア政府が自身の軍隊に法を適用すべきである。殺人や拷問をする兵士や警官は告発されるべきだ。昨年のラゴスにおいて、警官によりデモ隊15人が殺害されたにもかかわらず、誰の責任も追求されていないのは恥ずべきことである。無罪である人々を解放せよという裁判所の命令を秘密警察が無視してはいけない。これらは道徳的な問題のみならず、実害ともなるだろう。こうした政府の横暴をみて育つ若者たちは、過激派グループの仲間入りをする可能性が高い。

 

次に、ナイジェリアは警官の数を増やす必要がある。たとえばナイジャ州では2,400万の人口に対して、4,000人しか警官がいない。国中を点々とする連邦軍が誘拐や犯罪に対処するのではなく、地元の警官がそれらを担当したほうがよい。そのための資金は軍備の無駄をけずることで捻出できるだろう。学校を防衛する費用はそれほど多額ではない。ナイジェリア軍を訓練しているイギリスとアメリカは、刑事もまた養成すべきだ。警察機能が強化されれば、分離独立の火種のある地域からの撤兵も可能になるだろう。

 

安全を講じるために欠けているのは、アイディアでも資源でもない。ナイジェリア政界のエリートが甘やかされて慢心していることである(彼らの家屋敷は安全な首都で防衛されている)。喫緊の対応がなければ、ナイジェリアは這い上がれないほどの悪循環に落ちいってしまうことになるだろう。