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小惑星を動かす Oct 2021

 

 

The Economist, Oct 13th 2021

 

Science & Technology

Planetary defence

Nudge, nudge

 

小惑星を動かす

 

 

10月16日、探査機ルーシーが打ち上げられた。順調にいけば目的地である小惑星におけるミッション以上のことが期待されている。11月24日、探査機ダートもこれに続く。「二重小惑星方向転換試験(The Double Asteroid Redirection Test)」という名のプロジェクトは、ルーシー以上に実際的な目的がある。小惑星の軌道を変えられるかどうかを試みる。地球に衝突する天体を想定してのことだ。

 

重量600kgの探査機ダートは2022年の9月に、小惑星Dimorphosに衝突させる。Dimorphosは秒速6.2kmで小惑星Didymosの周りを周回している。この衝突によってDimorphosの速度を秒速0.5mmほど変化させる。そうすることによって、その公転周期を現在の11.9時間から約10分間短縮させることになる。

 

Didymosは直径780mの小惑星であるが、ジョンズ・ホプキンス大学のAndrew Chengによれば、このサイズの小惑星が地球に衝突したと仮定したら、地球は火の海と化し、大陸の半分は荒廃してしまうという。さらに、その後何年ものあいだ地球は寒冷化してしまう可能性がある。直径160mの小惑星Dimorphosでさえ、多大な被害が想定される。TNT爆弾400~600メガトン相当の爆破力をもつという。1908年、シベリアのツングースカに火球が落ちたが、その際には20メガトンほどの破壊力で2,000平方kmの森林が吹き飛ばされた。最新の報告によれば、紀元前1650年頃、ヨルダン渓谷のタル・エル・ハマムにて、ツングースカと同等の爆発があったかもしれないことが示唆されている。

 

 

知られてない小惑星は大量にある。NASAの地球近傍天体観測プロジェクト(Near-Earth Object Observation Programme)は地球軌道周辺の直径140m以上の小惑星を見つけることを目的としている。今のところ、そうした小惑星の半数ほどが確認されている。そのなかで脅威になるものは未だ見つかっていない。だが、もしそうした小惑星が発見された場合、いかなる対処ができるのかが問題となる。

 

もし衝突が迫っているのなら、おそらくやれることはない。だが、もし衝突が何年か後の話であれば、探査機ダートが小惑星Dimorphosに試みようとしているような一突きで、その小惑星の軌道が地球を逸れるように変えられる可能性がある。ほんの少し軌道を変えるだけで、長期的には大きな変化となるからだ。

 

探査機ダートの一突きが小惑星Dimorphosにおよぼす影響は、慎重に精査されるであろう。衝突の状況は、イタリアの小型人工衛星liciaCubeによって記録される。小型人工衛星liciaCubeはイタリア宇宙局によってつくられたもので、探査機ダートとともに打ち上げられ、小惑星と衝突する寸前に分離される。その後、二重小惑星DidymosとDimorphosは、地上の望遠鏡から観測されることになる。そして2024年、欧州宇宙機関(the European Space Agency)は小型機Heraを打ち上げて、2026年に二重小惑星に到達し、さらなる詳細を調査する予定である。そうして収集されるデータによって、小惑星衝突回避ミッションの実現性が研究されることになる。

 

通常であれば、このようなミッションは不要であろう。だが、もし地球に小惑星衝突の危機が迫るようなことがあるのであれば、探査機ダートによる調査は史上最大の意味をもつであろう。