英国誌「The Economist」を読む人

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トルクメニスタンの現実 Oct 2021

 

The Economist, Oct 14th 2021

 

Asia

Political dynasties 2

Not horsing around

 

トルクメニスタンの現実

 

 

アジアでコロナ対策に成功した国は北朝鮮だけではない。ユーラシア大陸の中央、カスピ海東岸のトルクメニスタンもまた、過去2年間、一人の感染者もだしていない(とされている)。同国はグルバングル・ベルディムハメドフ大統領のもと、「権力と幸福の時代」を謳歌している。大統領はレーシングカーをブッ放し、ライフル銃で大物を仕留める。トルクメニスタンの昨年の成長率は6%で、600万の国民は繁栄している。

 

そうした表向きの顔とは裏腹に、現実は酷い状況にある。給金は未払いのままであり、トルクメニスタンの通貨マナトは闇市場で公式レートの7分の1で取引されている。いつもはご機嫌な大統領も、同国の債務が膨らんでいることには不満をつのらせている(正確な数字は公表されていない)。アジア開発銀行によれば、トルクメニスタンの2020年におけるGDP成長率は1.6%にすぎない。エネルギー価格が下落したうえ、中国のガス需要も低下している。トルクメニスタンの輸出の90%がガスであり、その80%は中国向けである。

 

最近の天然ガス価格の高騰により、輸出はいくらか回復している。しかし、中国との契約が固定的であるため、急騰したガス価格の恩恵は受け損なっている。隣国アフガニスタンタリバンに占拠されたことにより、南アジアへ向けたパイプラインの建設も滞っている。外国からの援助もほとんど得られていない。

 

 

トルクメニスタンが豊かな国である、と政府が喧伝しても、国民はこの国の現実を知りすぎている。政府系テレビ局は棚からあふれるほどの商品を放映しているが、実際のところ、朝4-5時から食品店の列に並ばなくてはならない。そう言うのは、トルクメニスタンの人権擁護団体のFarid Tukhbatullinである。国民は誰も不平を口にしない。密告者が近くにいるかもしれないからだ、と彼は言う。

 

政府に疑問をもてば、警備官に取り締まられる。72歳のジャーナリストSoltan Achilovaは、首都アシガバートで今年のはじめ、政府補助の小麦粉と調理油が不足していると公の場で政府を批判した。彼女は人権団体のウェブサイトで「トルクメニスタン年代記」というレポートも書いていたため逮捕された。

 

昨年、Nurgeldi Halykovという若い男が捕まった。オランダを拠点とするニュース局Turkmen.newsに、インスタグラムの写真をシェアしたからだった。その写真は、トルクメニスタンを訪れていた世界保健機関の代表団の注意をひくものであった。トルクメニスタンは自国におけるコロナウイルスの存在を否定している(昨年、イギリス大使館で感染が確認されているのだが)。Turkmen.newsの編集者Ruslan Myatievは「トルクメニスタンは決してドジらない」と顔をしかめる。SNSやニュースサイトはブロックされている。警官らは検閲の網をくぐるソフトウェアがないか、携帯電話を監視している。トルクメニスタンの人々はズームにすらアクセスできない。

 

 

ベルディムハメドフ大統領は2007年の就任以来、こうした力任せの締め付けによって守護者を自認している。しかし、信頼のおける情報がないことで、思わぬ噂が広まったりもする。健康に不安を抱える大統領が2019年から姿を現していないということから、多くのトルクメニスタン人は大統領はすでに死んでいると思っている。

 

今年のはじめ、ベルディムハメドフ大統領は息子である40歳のSerdarを、大統領にのみ釈明義務のある副首相に任命した。2ヶ月後、その息子はトルクメニスタンの乗馬協会の会長になった。トルクメニスタンの産出するアハルテケ馬とアラバイ犬は、大統領の個人崇拝におけて重要な役割を担っている。この夏に公開された写真では、息子Serdarが大統領である父から贈られたサラブレッドにまたがっていた。トルクメニスタン人のあいだでは、代替わりが近いという憶測がとんだ。王位継承はそろそろなのかもしれない。