英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

パンデミックの終わりにむけて Oct 2021

 

The Economist, Oct 16th 2021

 

Leaders

The coronavirus

Covid-19’s rocky road

 

パンデミックの終わりにむけて

 

 

いかなるパンデミックにも終わりはくる。コロナウイルスも、そうした過程に入ったようだ。しかし、根絶やしにされたわけではない。徐々にスケールダウンしていっているだけである。こうなってくると、コロナウイルスは隆盛と変異を繰り返しながら、なおも高齢者や弱者への脅威でありつづける。それでも、とりあえずの落ち着きによって、もはや過去20ヶ月のようなモンスターぶりは発揮すまい。コロナウイルスは身近にありながらも、対処可能なウイルスになるだろう。たとえばインフルエンザのように。

 

終わりが見えてきたにせよ、いかなる過程を経るのかは依然わからない。慎重に錬られた計画と行き当たりばったりなそれとでは、数百万の命が左右されることになる。これは各国政府にとって最後のチャンスだ。パンデミックの初期で犯したような過ちを繰り返さないための。

 

パンデミックが収まってくるにつれ、週間の感染者数と死亡者数は世界的に減少しはじめている。8月の終わりからはアメリカでも減ってきている。イギリスでは感染者数が唯一増加しているが、ワクチン接種の効果は確実にでている。なぜなら、イギリス人の93%はすでに抗体をもつと考えられ、週に25万人が感染しても、死者数は3ケタではなく2ケタにとどまっている。これこそが終息への過程である。

 

 

どれほどの人々に抗体があるのかは分からない。大まかな推測しかできない。38億人の人々が、少なくとも一回はワクチンを受けている。エコノミスト誌が推計したところによると、パンデミックにおける超過死亡数は1,000~1,900万人、中央値は1,620万人である。致死性の感染症の割合を考えれば、14億~36億人の人々が病気にかかっていたことになり、公式統計の6~15倍となる。

 

免疫をもった人々が増えれば、コロナウイルスの脅威は薄らぐ。しかし、パンデミックを終息にもっていくには、まだ幾つかのやるべきことが残されている。

 

まず、北半球における冬の感染拡大が考えられる。人々が室内にいるときのほうが、感染は広まりやすい。感染者数が病床数を上回るようならば、政府は対策を講じなければならない。次に治療である。モルヌピラビルのような新たな治療薬は、重症化の確率を半分に下げる可能性をもつ。しかしながら、いまだ承認待ちである。そして政策である。マスクの着用、介護施設の保護、クラブやバーなど感染拡大地の封鎖などなど。問題は政府が感染者数の拡大に応じて迅速に対応できるかであろう。

 

 

2つ目の課題はウイルスの突然変異である。遺伝子サンプルによって、デルタ株にとってかわる新種が早期に発見できるかもしれないが、世界にはワクチン接種のなされていない監視の行き届かない場所が存在している。新たな変種には、新たなワクチンが必要になる。新たなワクチンは従来のものを再設計することになるが、新たな承認が必要になり、古い在庫を破棄して作り直さなければならない。うまく立ち回らなければ、2021年に犯した生産品不足の過ちを繰り返すことになるだろう。

 

最大の課題は、免疫をもたない何百万の人々をいかにウイルスから守るのかということだろう。中国の場合、ウイルスの拡散を防ぐために、厳格な隔離や封鎖をおこなうはずだ。その間に、ワクチンの接種をすすめ、薬の在庫を増やすことができる。中国共産党は感染者数の少なさによって、民主国に対する優位性を誇示している。ゼロ感染戦略を保持する理由がここにある。しかしながら、同様の戦略をおこなっているニュージランドでは、完全にウイルスを封じ込めることができていない。この先、中国もどうなるかはわからない。

 

最終的には、誰もが感染かワクチンによって免疫を獲得するだろう。ワクチンの安全性は高い。各国政府はできるかぎり接種をすすめなければならない。データ会社のAirfinityによれば、113億本のワクチンが年末までに製造予定で、2022年6月までには250億本となる。そうなれば、もはや世界中のワクチンが不足することはない(追加接種の進行具合にもよる)。すべてのワクチンの効果が等しいわけではないにせよ、感染してしまうよりはずっとましである。

 

 

ワクチンの供給安定には、輸出業者が卸業者までの輸送を完了していなければならない。追加接種や子供の接種のために在庫をキープするべきではない(子供がコロナウイルスで死ぬ可能性は極めて低い)。来年には供給が安定するとはいえ、いま摂取するべき人々がいるのである。

 

最後の障壁は、ワクチンの接種拒否と医療施設の収容力である。世界保健機関は各国に対して年末までに40%のワクチン接種を求めている。グローバル・ワクチン・サミットは2022年9月までに70%の接種完了を目指している。国が違えば、ワクチンも必要状況も異なる。人口動態やワクチンの承認過程、マラリアや麻疹など他の病気との兼ね合いなどなど。優先順位がはっきりしていないと、失敗につながる恐れがある。

 

やるべきリストは困難なものばかりだ。各国政府はしっかりこなせるだろうか。ようやく最後の障壁にとりつけてはいる。コロナウイルスの影が薄くなると、先進諸国はその関心を失ってしまうかもしれない。しかし、途上国におけるリスクは依然大きく、その人口は多大である。