英国誌「The Economist」を読む人

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イギリスの街灯 Oct 2021

 

The Economist, Oct 9th 2021

 

Britain

Street Lighting

In the gloaming

 

イギリスの街灯

 

 

イギリスは、夜に街灯を灯しはじめた国の一つである。1782年、ドイツの随筆家Karl Philipp Moritzは夜のロンドンがお祭りのように明るいことに驚いている。訪れたドイツの皇太子は彼のために明かりが灯されているものと勘違いした。しかし、イギリスにおける街灯には賛否がある。パリの街灯が権力の象徴(革命においては敵が街灯に吊るされた)であるのに対して、イギリスのそれは住民と企業の義務であることが多い。今日でさえ、地方政府は街路を明るくしておく必要は法的にはない。

 

大都市のほかは、さほど明るくない。ここ10年ほどで、ナトリウムランプからLEDへと切り替えられた。LEDのほうが省エネであるうえ、歩道だけを的確に照らすことができる。しかし、それらが最大の明るさで照らされることは滅多にない。ハンプシャー州では2009年から明るさを25%としており、真夜中でも65%、住宅街では消灯される。ノースヨークシャーでは住宅地の開発に街灯を設置する必要はなくなっている。

 

街灯が減っていることにはいくつかの理由があるが、その一つは夜の美しさを阻害しないためでもある。保守党議員のAndrew Griffithはダークスカイのための議員連盟の議長をつとめている。彼はモロッコで、闇夜の本当の美しさに打たれたという。また、コウモリや蛾のためでもある。さらに、二酸化炭素の排出を削減するためにも節電は必要である。

 

 

しかし何より、節約のためである。電気代の高騰もあり、リンカンシャー郡議会は街灯への出費を過去10年で5分の一、460万ポンド(620万ドル、6億8,000万円)削減している。ロンドンのいくつかの街よりも節約している。リンカンシャー高速道路の責任者Richard Daviesは言う、住民たちの不満は、節約したお金が社会福祉や道路補修に回されていると聞くと小さくなるという。

 

一般的に、気候変動に関心があるのは若者や女性、左派の人々である。しかし、リンカンシャー郡議会の住民に対する調査によると、若い人ほど街灯を消すことに反対しているという。リンカーン大学の女子学生は、街灯を夜じゅう灯してほしいとロビー活動をするほどである。保守的な地方ほど、暗闇を愛する。労働党自由民主党が支配的な都会ほど、その傾向は薄い。サフォーク州のイプスウィッチでは、サラ・エヴァラードさんの殺害事件(3月にロンドンで誘拐された)もあって、夜はずっと街灯を点けておくことになった。

 

地方当局は、街灯を減らしても犯罪は増加しないと言う。おそらく、それは正しい。しかし、ロンドン大学でライトに関する研究をしているJemima Unwinによれば、人々は暗くなると出歩かなくなる(とくに夕方)という。そして、歩行者は直立しているもの(たとえば壁や他の歩行者)が照らされていることで安心感をえるという。LEDのようなスポット的な照明よりも、ナトリウムランプのように広域を照らすライトのほうが効果が高い。

 

現実的にどうなのか。大都市以外の人々が夜中に出かけることはほとんどない。たいていの住民は街灯がついているのか消えているのかも知らない、とイプスウィッチのカウンセラーAlasdair Rossは言う。ノースヨークシャーの電気工学責任者Paul Gilmoreは、郡が街灯を消すようになる前に、現地調査をおこなっている。夜中に歩き回っても、人も車もほとんどなかったという。キツネのために街灯があるようなものだった、と。