英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

未来のお金 Sep 2021

 

The Economist, Sep 18th 2021

 

Leaders

The future of money

Down the rabbit hole

 

未来のお金

 

 

疑り深い人には、山ほどのネタ(fodder)がある。最初の暗号通貨であるビットコインに最初に飛びついた人々(earliest adopter)は、ドラッグを買うのにそれを使った。一方、サイバーハッカーたちは身代金を要求している。ether(デジタル通貨の一つ)は今年、コードのエラーをハッカーに見つけられ、何百万ドルも盗まれた。こうした暗号資産(cryptoasset)の価値は2兆2,000億ドル(約242兆円)にものぼる。そのため、手っ取り早く金持ちになりたい人々によって争奪されている(狂信的な信者とよべる者までいる)。エルサルバドルでは6月、自国を救うためにビットコインを公式通貨にしようとしている、とある請負人は語る。

 

悪党や愚か者、変節者にとっては不愉快だろうが、DeFiと呼ばれる分散型金融(decentralised finance)が金融サービスとしての収益体制(ecosystem)を築きはじめており、それらを真面目に考えるときがきている。DeFiによって金融システムを紡ぎ直すことができるかもしれない(当然、可能性とともに危険も存在する)。DeFiによる革新の広まりは、Webがはじまったころの熱狂とよく似ている。人々がオンラインに生きようとすれば、暗号通貨による革命(crypto-revolution)がデジタル経済の骨組みを再構築することになるだろう。

 

 

DeFiは、金融を撹乱する3つのデジタル潮流の一つである。デジタル・プラットフォーム企業は、支払いと銀行に割り込んできている。政府もデジタル通貨(govcoin)に着手している。DeFiは力を集中させるのではなく、分散させる方へ向かう代替経路alternative path)である。その仕組みを理解するには、ブロックチェーンからはじめるのがよいだろう。ブロックチェーンは巨大なコンピューター網で、その記録はオープンかつ公正で、中央権力(central authority)なしでアップデートされていく。

 

ビットコインは2009年につくられた最初のブロックチェーンであるが、いまや独占的ではない。イーサリアム(Ethereum)は2015年にDeFiを元につくられたブロックチェーンで、臨界点(critical mass)に達した。開発者たちにとっての金融は、ジューシーなご馳走でしかない。従来の銀行経営には、不特定多数の人々の信頼を保つために巨大なインフラが必要とされる(掃除から法令遵守、法廷まで)。多大な経費を要するし、ときおりインサイダーに乗っ取られる。それに対して、ブロックチェーン上での取り引きは信頼厚く、安価、迅速、透明性も高い。理論上はそうなっている。

 

 

手数料はガス、主要通貨はイーサ(ether)、NFTsとは非代替性トークンなど、専門用語にはたじろぐが、DeFi上で行われていることは日常的なものである。両替やローンの貸し出し、スマートコンタクトと呼ばれる即時の保証金制度など。アクティビティの基準とされるのは、担保として用いられるデジタル機器の価値であるが、ほぼ無の状態からスタートしたにもかかわらず、2018年初頭には9,000億ドル(約100兆円)になっている。イーサリアム(Ethereum)が認証する取り引きは、第2四半期に2兆5,000億ドル(約275兆円)に達した。これはVISAの取引量とほぼ同等であり、ナスダックの6分の1の規模である。

 

 

摩擦の少ない金融システムという夢ははじまったばかりだ。DeFiはより野心的な領域に広がりはじめている。MetaMaskというDeFiの財布は1,000万人以上のユーザーに利用されている。Metaverseというのは、ユーザーの運営するショップなどがある仮想世界であり、マンガ的なアバターでうろつきながら、その財布を使うことができる。こうしたデジタル世界によって、消費がオンラインにシフトしており、その競争は激化している。巨大ハイテク企業は、こうしたミニ経済圏に多大な税を課すこともできる。アップルによるアップストアなどがそうであり、アバターに課金するフェイスブックもそうである。可能性のある代替案としては、分散型のネットワークがある。それはアプリケーションを中心にユーザーが相互に運営するものである。DeFiは報酬と財産権を提供することができるだろう。

 

暗号通貨に熱中している者たちは夢を見ている。しかし、DeFiJPモルガンやペイパルほどの信頼性を得るには時間がかかる。問題のいくつかは退屈なものだ。ありがちな批判は、ブロックチェーンのプラットフォームは計量化がむずかしく、利用するコンピューターは無駄に電力を消費する、というものである。しかし、Ethereumには自己解決能力がある。需要が高まり、認証の際の手数料が増えれば、開発者は使用者の集中を最小化する動機をえる。それらはEthereumの新たなバージョンとなるだろう。また、ブロックチェーンがさらに改良される日が来るかもしれない。

 

 

しかし、DeFi独自のバーチャルな経済がどのように現実世界と関わっていくのか、疑問はまだ残る。一つの懸念は、外部価値の安定性が欠如していることである。暗号通貨はドルと変わるものではない。双方ともに、交換を前提とした信頼関係がある。しかしながら、現実の通貨は独占力をもった政府や中央銀行が後ろ盾になっており、保有者にとって最後の砦となっている。ところが、DeFiにはそれがない。つまり、パニックに対して脆弱である。バーチャル世界の外で契約が実施できるのか、それも疑問である。ブロックチェーンによる契約は、家を所有していたはずが、警察に立ち退きを命じられるようなことがあるかもしれない。

 

運営管理と説明責任は、DeFiにおいても初歩的なことである。人間が取り消すことのできない取り引きが続く危険性があり、とくにコードのエラーは不可避であろう。Ethereumと銀行システムの間には、支配のゆきとどかないグレーゾーンが存在するかもしれず、マネーロンダリングなどの危険もある。また、分散型とはいうものの、プログラマーやアプリの所有者がDeFiシステムに対してありえないほどの影響力をもつ可能性もある。悪意のある者によって、ブロックチェーンを構成するコンピューター群を支配されてしまったらどうなるのだろうか。

 

 

デジタル自由主義者は、DeFiは不完全だが、独立を保ってほしいと思っている。しかし、そのためには既存の金融および法システムに統合されなければならない、とGary Genslerは言う。彼は金融の番人、かつ暗号通貨のエキスパートである。DeFiアプリの多くは分散型の団体によって運営されているが、それらの団体は法律や当局の規制を受けるべきである。中央銀行の出資する国際決済銀行は、政府発行のgavcoinがDeFiアプリに組み込まれたほうが安定すると考えている。

 

金融は新たな時代に突入しており、新しいが欠陥もあるハイテクプラットフォーム、政府、そしてDeFi、これらが競い合いながら絡み合った状態にある。技術的な構造と、経済に対するイデオロギーをそれぞれが体現している。1990年代のインターネットのように、この革命の帰結点を誰も知らないが、通貨のあり方、そしてデジタル世界全体が変わっていくことになるだろう。