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バングラデシュの格安マスク Sep 2021

 

The Economist, Sep 11th 2021

 

Asia

Tackling covid-19

Face: the facts

 

バングラデシュの格安マスク

 

 

バングラデシュの首都ダッカには1,800万の人々がひしめいている。そして、いたるところにマスクが見られる。しかし…、露天商(street hawker)のマスクは顎の下。人力車引き(rickshaw-puller)のマスクはポケットから突き出ている。工場労働者のマスクは手首にぶら下がっている…。口と鼻の両方を覆ったマスクは、まず見られない。

 

マスクという、他国では一般的なコロナ防衛手段も、18億人の暮らす南アジアでは無力化されている。ロックダウンは効果的だが、家庭と企業をめちゃくちゃにしてしまう。というのも、南アジアの国々は人々を自宅待機させて補助金をだすほどの余裕がない。ワクチンの供給・配布も問題山積、11歳以上の15%しか接種を完了していない(EUは60%以上)。ワクチン接種がすすまないうちは、マスクが最良の防御となる。がしかし、その習慣がないのだから道は険しい。

 

 

コロナウイルスの拡散を防ぐための、フェイスマスクの有用性に関する最新の研究では、被験者の態度が実際に変わりうることが示された(それも格安で)。イェール大学とスタンフォード大学の研究者、および米国のNGOであるInnovations for Poverty Actionは昨年末、バングラデシュの村600ヶ所、34万2,000人を対象にマスクの使用状況を追跡調査した。研究のはじめにまず、半数の被験者にマスクを無料配布し、定期的なアドバイスを実施した。残りの半分の人々は、ただ見ているだけである。

 

結果は良好であった。マスクを配布したグループにおいて、きちんとマスクを着けるようになった人々が42%に上った(実験をはじめる前の3倍)。そして、実験期間の2ヶ月を過ぎても、アドバイスもなしにさらに2週間、マスクを着用しつづけてくれた。さらに、症候性感染(symptomatic infection)は9.3%減少し、布製ではなく医療用のマスクを着けた60歳以上の人々の場合は34%減少した。研究者のMushiq Mobarakは、若い世代の家族の場合も減少したでしょう、と言う。しかし、若者に多い無症候性感染(asymptomatic infection)の追跡は、予算不足のため実施できなかった。

 

 

この研究によって、人々にマスクを着けてもらうには、昔ながらの簡単な方法でよいことがわかった。まず無料でマスクを配布し、いかにマスク着用が大切かを、模範となるケースを提示して理解を求めるのである。バングラデシュでは、有名なクリケット選手と地元の宗教的リーダーが手本となってくれた。これは良い行いを広めるためのカラクリであり、村の人たちに少しずつマスクを広めていく結果となった。

 

啓蒙していく人物を雇うのにはお金がかかるが、ほかはそれほどでもない。医療用のマスクは一枚5セント(5円)程度である。普通は使い捨てのマスクも、何度か洗って使うことに問題はなく、よりコストが削減された。バングラデシュNGO、BRACのAsif Salehは言う、びっくりするくらいお金がかからない、と。

 

 

BRACはこの方法を8,000万人のバングラデシュ人(全人口のおよそ半分)に実施した。要した費用は650万ドル(7億1,500万円)、一人あたり42セント(46円)という超特価(bargain-basement price)であった。さらに、インド、ネパール、パキスタンNGOおよび政府も、新たな2,000万人に実施することになっている。Mr Salehは言う、継続していくことが大切です、と。

 

ワクチン接種のすすんだ先進諸国では、とりあえず普通の生活が戻りつつある。しかし、南アジアの国々にはまだまだやれることがあるようだ。