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中国ゲーム禁止令 Sep 2021

 

The Economist, Sep 2nd 2021

 

Business

Video gaming

Game over

 

中国ゲーム禁止令

 

 

独裁共済圏にあって資本家でいることは骨がおれる。ここ数ヶ月で、中国当局は巨大ハイテク企業らを追い回した(独占力の悪用、データ不正使用の疑いなど)。社会的団結の名のもとに、利益目的の指導を禁じ、大企業や億万長者らの社会的責任を追求した。こうした巨大ハイテク企業に対する取り締まりによって、中国では1兆円の資産が消えたといわれている。

 

年間440億ドル(約4兆8,000億円)という世界最大の中国ビデオゲーム産業が、8月30日、新たなターゲットにされた。公表された新たなルールによると、18歳以下の子供たちはオンラインゲームのプレイが、金・土・日曜および祝日の夜8~9時のみに限定される。この新ルールは青少年の健全な心体を守るためと謳われている。

 

 

これは世界一厳しいルールであり、何千万人という人々に影響をあたえるだろう。中国人の子どもの3分の2は日常的にオンラインゲームをしているという。しかし、こうした考えは新しいものではない。中国は10年以上前から、ビデオゲームには中毒性があり不健全であると懸念してきた、とアジアのゲーム市場を調査しているNiko PartnersのDaniel Ahmadは言う。中国の検閲は政治的なことや暴力を嫌うため、海外のゲームが中国で販売権を得るには修正が迫られる。今回の新たな規制は、2019年の規制(ゲーム時間一日あたり90分、夜10時~朝8時までは夜間禁止)を強化したかたちである。韓国も同じように夜間のゲームを2011年に禁止していたが、8月25日にこのルールは撤廃された。

 

こうした規制には抜け道(loophole)もある。中国の反中毒システムによれば、オンラインゲームをする際には実名と政府発行のIDナンバーが必要になる。そして、決められた時間が経過するとプレイできなくなる。しかし、大人の認証情報を使ったり、インターネットカフェでプレイしたりすれば、長時間ゲームをすることができる。とはいえ、今回はそうした回避行動も、当局によって防がれるかもしれない。重い腰をあげないゲーム企業には、厳しい取り締まりと罰がまっている。中国最大のゲーム会社であるテンセントは、顔認証システムを用いることによって、なりすましのプレイをできないようにしたという。

 

 

このような厳しさにもかかわらず、この新ルールに対する反応はほとんどない。テンセントとNetEase(ライバル企業)の株価はほんの少し下がっただけだ。これはおそらく、この新ルールが企業に及ぼす影響はさほど大きくないということだろう。中国では1億人以上の子供がゲームをしているわけだが、新キャラやアイテムに課金するゲーマーはそれほど多くない。この四半期をみても、テンセントのゲーム収入のうち2.6%ほどしか、16歳以下からの課金収入はない。

 

しかし、長期的な影響はあなどれない。いまは金のないティーンエイジャーも、いずれは可処分所得(disposable income)をもつ身分となる。もし、今回の取り締まりが功を奏せば、中国の大手ゲーム企業は将来の顧客を失うことになるだろう、とある識者は言う。欧米の企業も同様だ。アメリカのRobloxというゲームプラットフォームは、ユーザーが自分でつくったミニゲームを友人たちとシェアして遊ぶものだが、これもリスクにさらされることになる、と投資銀行Jefferiesは言う。このゲームは4,000万人以上のデーリーユーザーをかかえているが、そのターゲットなっているのは若い年代のプレーヤーたちだ。この7月、中国にも展開したばかりだ。

 

 

もう一つの焦点は、この取り締まりがどれほど広がるのかということだ。いまのところ、中国のゲーマーがグレーなマーケットを利用できるのは、外国企業のおかげである。グレーな外国企業は正式なライセンスもなしに中国で彼らのプロダクトを販売している(ライセンスをとることもできないし、その気もない)。PlayerUnknown’s Battlegroundsという韓国のオンラインゲームは、中国で2,000万部あまりを非公式に販売したとされている。オンラインゲームショップのSteamは、5,000万人前後の中国ゲーマーに利用されているが、不思議と中国の防火長城(ファイアウォール)にひっかからない。その結果、何万ものゲームが中国に流入している。

 

不穏な兆候もある。2月にアップル社は何万もの非公認ゲームを中国のアップストアから削除した。そして、中国の検閲向けに新たなSteamを上陸させた(ゲーム数は少なく、ユーザーはほとんどいない)。しかし、もし中国の規制がつづけば、中国のゲーマーたちはいずれ、こうした中国向けのゲームをプレイできるようになるかもしれない。