英国誌「The Economist」を読む人

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タリバンとテレビ Sep 2021

 

 The Economist, Sep 2nd 2021

 

Asia

Media in Afghanistan

Cutting Kabul’s cable

 

タリバンとテレビ

 

 

8月20に行われたMalala Yousafzaiへのインタビュー番組を、地元テレビ局Toloが放映した。Malalaはパキスタンタリバンに撃たれて死にかけたが、その後ノーベル平和賞(the Nobel peace prize)を受賞。女性教育の必要を訴えている。この番組を、数百万のアフガン人たちが見ていた。

 

 

放送直後、アフガニスタンタリバンの広報担当(spokesman)が、カブールにあるテレビ局Toloの事務所にやってきた。2時間ほど、メディアと女性の権利について語り合った。文句があって脅しに来たわけではなかった。彼は言った、新政府は報道の自由(the freedom of the press)を尊重する、と。

 

数日前、ほかの報道官がTolo局の女性キャスターのインタビューに答えている。記者会見(press conference)ではタリバン当局者が、きわどい質問にも答えた。たとえば「アフガンの人々はあななたちを許すとおもいますか?」など(サウジアラビアだったら、きっと部屋を追い出されてしまうだろう)。

 

タリバンはこう言っている。われわれは前回政権をにぎったときから、だいぶ丸くなっている、と。タリバンがテレビ局などに懐の深さを見せるのは、世界中に対して彼らの寛容さを知らしめるための政策の一環である。

 

 

タリバンはそこそこ有能で、ソーシャルメディアを巧みにつかい、世界に情報を発信している。しかし、アフガニスタンの人々に対する影響は、国内のテレビのほうが大きい。タリバンが1990年代に国を支配したときは、テレビを禁止し、テレビ局を壊して回った。だが、今そんなことをやれば、国を治めることなどできないだろう。現代のアフガニスタン人はテレビなしではやっていけない。2004年に設立されたToloというテレビ局は、アフガニスタンでもっとも大きく、200以上のチャンネルを国内外にもつ。料理番組からゲームショー、イスラム教育、スポーツなど、番組は多岐にわたる。

 

アフガニスタンでは、30%の人々しかインターネットにアクセスしない一方、テレビは70%の人が見る。ゴールデンタイムには国民の4分の1にあたる1,000~1,200万人がテレビを見ている。昨年の「アフガン・スター」というミュージック番組(「アメリカン・アイドル」と同等)の決勝は、国の総選挙以上に人々が投票したという。「他にやることがないんだ」と、Tolo局のボスSaad Mohseniは言う。「みんなテレビの前にあつまって、何時間もディスカッションしている。アメリカの50年代みたいなもんさ」。ソーシャルメディアとは違い、人々は孤独ではない。テレビはアフガニスタンの人々を和ませている。

 

 

2008年、アフガン政府はインドのドラマ番組「Because the Mother-in-Law Was Once the Daughter-in-Law」を放送禁止にしようとしたことがあった。文化大臣が道徳的に不適切とみなしたためだった。当然、ファンは怒った。そこで、テレビ局Toloは政府と法廷で争い、勝った。

 

Toloはニュースを軸足としているため、エンタメ番組などでは譲歩もする。ルールが厳しくなるのを見越して、トルコのドラマ2つを放送中止にしたことがある。その穴埋めのため、6時のニュースに2倍の時間をかけ、あとの残りは、クリケットの試合とオスマン帝国の歴史番組を流した。

 

しかし、タリバンは次第に厳しくなっている。タリバンの広報担当にインタビューした女性は、すでに逃亡しているし、テレビ局Toloのジャーナリストとカメラマンは、タリバンの兵士に痛めつけられた。しかし、もしタリバンがテレビをつまらないものにしたり、禁止したりすれば、アフガニスタンの人々にそっぽを向かれるだろう。それ以上に、タリバンがテレビを検閲したり、違法にしたりすることは、彼らが21世紀の仲間入りを拒否したと世界に判断されることになるだろう。20世紀でさえも、ありえないことだ。