英国誌「The Economist」を読む人

イギリス「エコノミスト誌」を読んでいます。

夜空の価値 Sep 2021

 

The Economist, Sep 4th 2021

 

United States

Dim the lights

Star power

 

夜空の価値

 

 

コロラド州、最後の熱狂だった。1800年代後半、クリード(Creede)という町に1万人が殺到した。サンファン山脈に眠る銀を探しに。無法者に詐欺師、町はまるで西部開拓時代(Wild West)そのままだった。銀の価格に左右されながら、町の発展は100年近くつづいた。最後の鉱山が閉鎖されたのは1985年、残ったのは300人程度。山には鉱山キャンプのガラクタだけが残された。

 

そして今、この見捨てられた町は経済復興をはかるべく、新たな光り輝く資源を見つけた。それは星だ。

 

 

地元NPOであるヘッドウォーター・アライアンスは、クリード町を「ダークスカイ保護地区」にすることにした。このキャンペーンはコロラド州南部だけではなく、アメリカ西部一帯にわたるものだ。アリゾナ州ツーソン(Tucson)に本部をおくIDA(国際ダークスカイ協会)は、光害(light pollution)を減らすことを目的としている。人工的な光は、夜行性の野生動物(nocturnal wildlife)に迷惑であり、夜空の星も見えなくしてしまう。2001年以来、IDAは世界130ヶ所をダークスカイプレースに認定しており、そのうち14ヶ所がコロラド州にある。

 

クリード町の95%は公有地であるため、夜の光を消すのは他の町にくらべて難しくない。リオグランデ国有林と、サンファンのぎざぎざの崖は、訪れた人々を暗闇に包み込む。保護地区の制定に尽力したAlex Handloffは、アストロレンジャーズという名のボランティアを組織し、光害となる光源の照度を測定している。

 

 

夜の暗闇には、環境的に素晴らしいだけではない。美しい夜空が人々を惹きつけ、かつて鉱山で栄えたこの町をふたたび活気づかせる可能性をもつ。キャンプやハイキングなど、夏場は人々が訪れる。しかし、ほかのシーズンは閑古鳥だ、と保護地区の援助者Jan Crawfordは言う。「こんなジョークがある。クリードの町に50ドル紙幣が浮いている。そのお札は冬のあいだずっと、こっちへきたり、あっちへいったりを繰り返すだけ」。

 

ここ10年で人口は22%増えた(調査の精度があがっただけという話もある)。しかし、あまり多くの人たちに来られても、逆に困る。せっかくの田舎の良さが台無しになってしまう。Mr Handloffはこう言う、「漆黒の夜空を守るには、ほどほどの(low-impact)観光地でなければいけません。バランスが大事なのです」と。

 

住民たちはいまだ半信半疑だ。コロラド州の小さな町はたいがい、なにかにと指図されることを嫌う。たとえば玄関の灯り一つにしてもだ。夜空を守るということは、暗さを楽しめということだ。Ms Crawfordは言う、「闇を恐れてはいけません」と。