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温暖化、3つのターゲット Aug 2021

The Economist

Aug 14th 2021

 

Leaders

Climate change

It is not all about the carbon

 

温暖化、3つのターゲット

 

 

IPCC気候変動に関する政府間パネル)の最新の声明によれば、各国政府がたとえ温暖化ガスの排出を約束どおりに削減したとしても、2050年までに(19世紀後半に比べて)平均気温が1.5℃上昇する可能性が高いという。

 

これは重大で恐ろしいことだが、もはやショッキングなことではない。平均気温上昇を1.5℃以下に抑えるという、6年前にパリで合意された目標は、多くの国々が真剣に取り組んでいる。とくに海水面の上昇が自国存続の危機(existential threat)にある小さな島国などはなおさらだ。だが、その達成は相当に厳しそうだ。

 

 

IPCCは、こうも言う。もし二酸化炭素の排出規制のみが人類のなしえる気候変動への唯一の対策だとしたら、平均気温の1.5℃上昇はすぐそこまで来ている。じつは他の温暖化ガスも問題なのだ。たとえば硫酸エアロゾル(sulphate aerosols)。石炭やオイルの燃焼によって発生する極小の粒子、硫酸エアロゾルは人間の肺を汚しもするが、太陽光を反射することで地球の気温を下げてくれる。

 

IPCCの推計によれば、硫酸塩(sulphates)の存在によって気温は(19世紀後半にくらべて)0.4~0.5℃低下している。そのおかげで、温暖化は1.1℃の上昇にとどまっている。しかし、硫酸塩の冷却効果は弱まっている。大気汚染を改善するために、硫酸塩は現在、ほとんどの液体燃料から取り除かれており、中国の石炭火力発電所でさえも排煙をきれいにしている。おかげで大気はきれいになったが、地球への冷却効果は弱まった。また、化石燃料からの急激な脱却により、硫酸塩はさらに発生しなくなるだろう。こうして、皮肉にも二酸化炭素の温暖化効果はますます活発になるのである。

 

 

2006年、大気化学学者Paul Crutzenは、人々の肺を守りながらも硫酸塩の冷却効果を保つ方法を提案した。工場が硫酸塩を排出するような低空で、硫酸塩は長く生きられない。その一方、成層圏(stratosphere)のような上空ではずっと長く生きる。すなわち、希薄な硫酸塩を成層圏へと送ることができれば、現在低空の硫酸塩スモッグが果たしているような冷却効果を、人体を害することなく得られる可能性があるという。

 

Crutzenの考えに刺激され、「ソーラー・ジオエンジニアリング(太陽光の気候工学)」として知られる可能性が浮上した。それは、地球に降り注ぐ太陽光を意図的に遮断するというアイディアだ。IPCCのシナリオにはなかった考えだ。だが、ソーラー・ジオエンジニアリングには致命的な欠陥(significant drawbacks)も指摘されている。それでも、太陽光の入射量を減らすことによって、二酸化炭素を減らすよりも迅速に温暖化に対応できる可能性はある。

 

欠点と可能性の両方があることで、ソーラー・ジオエンジニアリングは徹底的に、そして組織的に研究されていくだろう。しかし、それが早く簡単に実現できると考えるのは早計だ。心配なのは、ソーラー・ジオエンジニアリングが二酸化炭素の削減をしなくてもいい言い訳になってしまわないかということだ。たとえソーラー・ジオエンジニアリングが不完全ながらも機能したとして、より高濃度になった温室効果ガスがどのような不安定さをもたらすのか、予断を許さない。

 

 

IPCCが強く推奨する、硫黄塩の汚染を解消する方法は、人間活動によって生じる他の温暖化ガスの削減を一層推し進めることだ。たとえばメタン(Methane)二酸化炭素よりも強力な温暖化ガスである。メタンはほんの10年しか大気中にとどまることはできない。メタンの排出を減らせれば、すぐにメタンのレベルは低下し、温暖化を抑制することになる。

 

しかし実際のところ、メタンの大気中濃度(atmospheric concentration)は、それほど下がっていない。まだ、やれることがある。エネルギー産業は規制をより厳しくすることもできる。なぜなら、メタンはお金を出しても買う価値があるからだ。埋め立てゴミからでるメタンを減らすのも、それほど難しくはない。家畜のゲップも、適正なエサを与えることによって減らすことができる。メタンの排出を減らすのは大変かもしれないが、その可能性は残されている。

 

二酸化炭素が気候変動の核心であることに変わりはない。ソーラー・ジオエンジニアリングの可能性や実現性、そしてその危険を知ることは必要だ。それでも、メタンの排出を減らすほうが即効性がある。暑さを増すこの世界、11月のCOP26においては、メタンが重要な議題となるであろう。