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レバノン産オリーブオイルの野望 Aug 2021

 

The Economist, Aug 28th 2021

 

Middle East & Africa

Lebanon

Extra-virgin territory

 

レバノン産オリーブオイルの野望

 

 

はじまりはホームシックだった。Kaakourは家族のオリーブ園(olive groves)が懐かしくなっていた。

 

彼がエンジニアの仕事をやめてレバノン(Lebanon)に帰ってきたのは4年前だ。そのころは農業というよりか、家庭菜園(a hobby)のようなものだった。

 

Kaakourには夢があった、オリーブ園を復活させるという。レバノンのオリーブオイル作りの起源はフェニキア時代にまでさかのぼることができるが、もはや死んだようになっていた。

 

Kaakourは「ジェンコ・オリーブオイルGenco Olive Oil)」という会社を立ち上げた。その名の由来は、映画ゴッドファーザーのヴィトー・コルレオーネ(Vito Corleone)の創業したオリーブオイル輸入会社にある。

 

 

Kaakourには仲間がいる。まずは近所のWalid Mushantaf。彼は2010年、小麦をやめてオリーブを植えた。Bustan El Zeitounという会社を共同経営し、イタリアのオリーブ品種を育てている。Rose Bechara Periniはレバノンの山深くに農場をもち、Darmmess SARLという会社名でオリーブのsouriという品種を育てている。彼女の住む町Deir Mimasは絵画のように美しく、そこから生まれるオリーブオイルは「オリーブオイル界のボルドー」と呼ばれるほどだ。

 

彼らは同じ課題にとりくんでいる。オリーブオイルはかつて、レバノン料理(Lebanese cuisine)に欠かせないものだったが、今はそれほど使われなくなっている。レバノンの人々は輸入された植物油(vegetable oil)をよく使うようになった。というのも、レバノン・ポンド高によって、輸入ものが格安で手に入ったからである。

 

レバノン国内のオリーブ農家の多くは小さな農家ばかりで、オリーブオイルの品質も下り坂だ。その結果、レバノンのオリーブオイル消費量は、スペイン人の10分の1、年間一人あたり1.6kgにすぎない。

 

レバノンに長くつづく経済不況は、オリーブオイル問題をより困難にしている。国内のあらゆるものの生産量が乏しく、ボトルから肥料まですべて輸入に頼らざるをえない。レバノン・ポンドの価値が下がれば、輸入品の買値は高くなり、ドルが足りなくなってしまう。

 

さらには燃料も不足しており、9月に収穫をひかえたオリーブを絞れるかどうか。そして、このパンデミックである。オリーブオイルを大量に消費するレストランは、軒並み打撃をうけてしまっている。

 

レバノン・ポンドの下落によって、輸入していた植物油が値上がりしている。Kaakourのような国内のオイル生産者にとっては追い風かもしれない。しかし、彼の目は国際市場を見ている。国じゅうからオリーブを集めて、最高級のオリーブオイルを輸出しようというのだ。

 

先例はレバノンのワインにある。1970年代までは輸出していなかったが、Serge Hocharは内戦のさなか、赤ワインをブレンドして国外に売りはじめた。そして1979年、ブリストルのワイン・フェアで絶賛されて以来、シャトー・ムザール(Chateau Musar)ワインはブランドとなった。いまやレバノンのワインの半数が輸出されるまでになった。

 

オリーブオイルの生産者たちも、スペインやイタリアなどの横綱級オイルとやりあえると信じている。量ではなく、質の勝負である。Mr Kaakour、Mr Mushantaf、Ms Bechara Periniの3人は、世界的な品評会で賞を勝ちとっている。品評会の主催者のひとりであるAntonio Giuseppe Lauroは、レバノン産の製品が確実によくなっていると言う。

 

Mr Kaakourは満点のオイルを目指している。