英国誌「The Economist」を読む人

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森林のパンデミック Oct 2021

 

The Economist, Oct 9th 2021

 

Britain

Woodlands

Treedemic

 

森林のパンデミック

 

 

最初の兆しは見落とされた。こちらで病み、あちらで倒れた。2021年にはわずかだったものが、またたくまに国中へと広がった。人間の場合と同じように、木々もまた小さな不安の種が、新たな病の到来を告げていた。無力なドングリがオークの巨木へと成長するかのごとく、小さな兆候が壊滅的な病魔に育ってしまった。

 

病で倒れたイギリスの木々がいったい何本におよぶのか、誰も知らない。何百万ヘクタールという大森林のなかでの出来事だ。西洋トネリコ、ニレ、オーク、ブナ、トチノキ、ハンノキ、カラマツ…、どこまでも病は広がり、枯れるものも多い。ロンドンでは秋の訪れをまたずに、トチノキの葉が縮みあがり、茶色くなって萎れた。デボンとカンブリアでは、病んだ西洋トネリコが、骨だけになった枝を空にかかげている。ダンフリーズとガロウェイでは、丘上のカラマツが倒れた。

 

木々のパンデミックである。一種ではなく多種の病原菌だ。穏やかなものもあれば、地形を変えるほどのものもある。オランダ・ニレ病が1960年代と1970年代にイギリスで流行したとき、国家的悲劇と形容された。だた、悲劇はこれだけでは終わらなかった。これからはじまるパンデミックの先触れでしかなかった。1960年代以降、20あまりの病魔がイギリスの木々を襲った。まだ40以上が海を渡っていない。それは、感染を鈍化させる努力のおかげである。監視ヘリコプターがイギリス上空を飛び回って、病気の兆候を見つけるや、即座に伐採の指令をとばす。

 

 

とある秋の日、イギリスの湖水地方、ウィンダーミア湖のほとり、グレート・ノット・ウッドは木漏れ日のなかにあった。いかにもイギリスらしい森だ。暗からず、深からず、それでいて文化の薫りが息づいている。ワーズワースはこの森を逍遥しながら、「これこそが自然の造形だ」と歓喜した。その造形美はいまや、脅威にさらされている。カラマツの突然死、2002年からイギリスではじまり、この森も例外とはならなかった。慈善団体the Woodland Trust のカンブリア地方責任者Heather Swiftは言う、半年もしないうちに、この森のカラマツはすべて枯れてしまうだろう、と。

 

この惨劇の理由はシンプルだ、木々は動けない。その種子であれば、鳥や動物に食されることにより、数メートルまたは数マイルは移動できるかもしれない。しかし、中つ国の物語やマクベスでなければ、植物自体はその場にとどまりつづける。他の生物の多くは毎年のように動き、移動するのだが。過去30年で、世界の園芸業界は急速に発展し、雑草などは陰に追いやられた。バーナムの森からダンシネーン・ヒルへと移動したように、森林もとどまってはいない。これは悪い兆候だ。

 

ポット苗を買うとする。一株だけ買ったと思うだろうが、そうではない。最近のthe Journal of FungiにおいてAlexandra Puertolasらは、イギリスとオランダで購入された苗木の土には、病原菌を含む有機物が90%含まれている、と分析している。苗木を買うということは、病原菌もまた購入していると考えたほうがよいだろう。

 

 

さらに悪いことには、苗木に含まれる病原菌は一地域だけのものではないかもしれない。イギリスの土に植えられるまでに、ヨーロッパ大陸を周遊旅行していることが多い。苗木のラベルには、生産地や生育地を記載する義務はない。西洋トネリコの胴枯病は2012年に規制が強化された、とキュー王立植物ガーデンの上級研究員Richard Buggsは言う。しかし、他の木々は長旅をしている。オランダで生まれた一本の苗木は、夏は成長がはやいイタリアへと送られ、帰国の際にドイツを通過し、イギリスへと輸送される。こうしたヨーロッパ周遊旅行によって、苗木には多種の病原菌がついてしまう。

 

苗木栽培のグルーバル化によって、各国ともに同様の問題を抱えている。しかし、イギリスほど深刻な国はない。なぜなら、イギリスには育苗場が少なく、天然の木々にも乏しい(改善しようと試みてはいるが)。苗木の輸入額は、1992年の600万ポンド(2019年には1,250万ポンド、1,600万ドル)から現在は9,300万ポンド(約14億3,000万円)へと、650%近く増加している。今年4月までの12ヶ月間で、イギリスでは425万本の苗木が新たに植えられている、とイギリスの森林組合は言う。慈善団体the Woodland Trustは、2025年までに5,000万本の苗木を栽植すると宣言している。

 

樹木の病気の潜在力をおもえば、これらの数字が小さく見える。イギリスには1億5,000万本の西洋トネリコの木々があり、その苗木はさらに多い。そして、それらのすべてが胴枯病に感染している可能性がある。感染した樹木の90~99%は枯れることになるだろう。枯れ木は除去しなければならない。道路や線路に覆いかぶさるような倒木はなおさらだ。こうした環境への損失は大きい。オックスフォード大学の研究によれば、150億ポンド(GDP比0.7%)が倒木らの始末に必要になるとのことである。

 

 

人類は千年にわたり森林を利用してきた。古代ローマ人はひと泳ぎしたあと、北アメリカの木々で暖をとった。キャプテン・クックボタニー湾(オーストラリア)から戻るときに、植物の標本を大量に持ち帰った。ローマの商品や探求者らは、材木と種子を運んだ。いまは、苗木として輸送されている。材木と違い、苗木の場合は動物を輸送することと似通っている(人間の移動もそうだが)。Mr Buggsは言う、ヨーロッパ人がアメリカ大陸を植民地としたため、インフルエンザや水疱瘡がヨーロッパにひろまった。そうした病気に耐性がなければ、大惨事がひきおこされうる。

 

苗木の移動が少なければ、病気の拡散も少ない。そのためには国内の育苗場を増やし、輸入を減らさなければならない。イギリスはEUから抜けたことで、国境の植物検疫をさらに強化できる。犠牲はともなうだろう。しかし、病原菌によってもたらされるであろう惨禍に比べれば、被害は小さい。オックスフォードの研究によれば、苗木を含めたすべての生きた植物の輸入および輸出の額は2017年、3億ポンド(約460億円)相当だという。この数字は、西洋トネリコの胴枯病にかかるであろうコストの2%ほどにすぎない。木々は生きているということを再認識しなければならない。

 

 

ボルボの電気自動車 Oct 2021

 

The Economist, Oct 9th 2021

 

Business

Carmaking

Electric blue and yellow

 

ボルボの電気自動車

 

 

ボルボのスポーツカーには、青と黄色の小さな旗からトール・ハンマー型のヘッドライトまで、スウェーデンの伝統が息づいている。安全性と環境性能を謳ったスカンジナビアの洗練されたデザインは、ボルボをヨーロッパのみならず、中国やアメリカにまで行き渡らせた。さらなる躍進はつづく。10月4日のIPO(新規株式公開)に際し、ボルボ最高経営責任者Hakan Samuelssonは言った、「よりスウェーデンらしく、よりグローバルに」と。

 

スウェーデンに別れを告げ、ストックホルムに上場することで、ボルボノルウェーアイデンティティーが強化されることになるだろう。IPOによって、より広い世界へ、より幅広い投資家へ訴求することになる。変化の早い自動車業界を舵取りしていくため、その小規模な機敏性を活かしながら。Samuelssonは言う、吉利との関係は変わらない、と。中国の吉利は2010年にボルボをフォードから18億ドル(約2,000億円)で買い取って以来、筆頭株主の地位にある。ボルボと吉利は引き続き、コストと技術を共有していくという。

 

吉利が2018年にボルボIPOを諦めた表向きの理由は、中国と西欧間の貿易戦争であった。しかし実際のところ、投資家たちは当時のボルボに300億ドル(3兆3,000億円)の価値があるとは思っていなかった(今でこそ妥当に思える評価である)。フォードの元でボルボは苦しんだ。昨年のアメリカでの販売台数は37万4,000万台で、健全な経営のためには来年6月までの12ヶ月間で77万3,000万台を販売しなければならない。2025年までに年間1,200万台を目指しているが、それは達成可能な数字である。販売に関して、カーディーラーを通すのではなく、顧客に固定価格で直接販売するか、サブスクリプション(月々定額制)によるものを考えている。

 

 

より重要なことは、ボルボがEV(電気自動車)において他社を先んじていることである。これは顧客も投資家も認めるところだ。ボルボは2030年までに完全電動化を目指しており(他社の目標よりずっと早い)、内燃機関部門は別に独立させて、電動化に集中する予定である。さらにボルボは、スウェーデンのバッテリー企業Northvoltと提携してギガファクトリーを建築し、大量供給を可能にする計画だ。ボルボの半ば所有するEV専用メーカーPolestarは、特別買収企業の逆買収によって来年には上場するという(200億ドルの評価額を目指している)。ボルボの製造能力、販売およびサービス網を活かして、Polestarはバッテリーの生産を請け負う。多くのEVスタートアップ企業は、こうした地盤をもっていない。

 

吉利はボルボを所有していることで、10年後には利益を手にするだろう。中国企業は支配的な地位を保つだろうが、新株発行によってカーメーカーから輸送技術グループへと再編成していくだろう。そうしたグループは、輸送サービスや自律運転車などに必要となるスマートフォンや衛星なども手掛けるはずだ。ボルボは30億ドル(3,300億円)近くをIPOによって調達するだろう。Mr Samuelssonは言う、カーメーカーは電動化の時流にのらなければならない。ライバル企業もまたそうすることだろう、と。

 

 

水素の可能性 Oct 2021

 

The Economist, Oct 9th 2021

 

Leaders

Climate change and innovation

Hydrogen’s hope and hype

 

水素の可能性

 

 

1937年のヒンデンブルク号爆発事故(Led ZeppelinⅠのジャケットで有名)以来、水素エネルギーは議論の的である。推進派は、水素こそ車と家に必要なエネルギーを供給する低炭素の救世主だと主張する。水素エネルギーの登場によって、エネルギー界の地図は書き換えられるだろうとまで言う。懐疑派は、1970年代以来の水素への投資は、水素ガスの欠陥が露呈されることにより泣く泣く終了するだろうと言う。実際のところ、われわれの答えはその中間にある。水素の技術により温暖化ガスの排出は2050年までに現在より1割ほど縮小できるだろう。これは望みうる最高の結果ではないかもしれないが、エネルギーの取引規模を考え合わせれば、贅沢すぎるくらいであろう。

 

水素は石油や石炭のような主要なエネルギーとはならない。むしろ電気のようにエネルギーの運び手として、またはバッテリーのようにエネルギーの貯蔵場として用いるのが最善である。水素は水を分解してつくることができるので、再生可能エネルギー原子力と同じく、低炭素のエネルギー源になりえる。その製造方法は今のところ非効率なうえ高くつくが、コストは下がりつつある。水素は化石燃料からつくりだすこともできる。しかし、その過程で大量の汚染物質が放出されてしまうので、カーボンを固定分離する技術が必修となる。水素はほかの燃料に比べて燃えやすく、かさばる。熱力学の法則によれば、主要エネルギーを水素に、そして水素を使用可能なエネルギーに変換する際には、必ず不要物も発生してしまう。

 

水素ガスは厄介な歴史をもつ。1970年代のオイルショックによって水素エネルギーの研究は注目を浴びたが、たいした成果は得られなかった。1980年代、ソ連は水素エネルギーを用いた旅客機を飛ばしたが、その初飛行は21分で終わってしまった。

 

 

今日の気候変動によって、新たな熱狂の波がおこりはじめている。350以上の巨大プロジェクトが進行中で、累積投資額は2030年には5,000億ドル(約55兆円)に達する見込みだ。モルガン・スタンレーは2050年までに水素の年間セールス額が6,000億ドル(約66兆円)になるだろうと見積もっている。現在のそれは1,500億ドル(約16兆円)で、主に肥料製造を含む産業用途によるものである。インドでは近々水素のオークションが開催される予定で、チリでは国有地での製造に入札されている。イギリス、フランス、ドイツ、日本、韓国など多くの国々には、国家的な水素計画がある。

 

こうした熱狂にあって、水素を用いてできることとできないことをハッキリさせておこう。日本と韓国の企業は水素エネルギーの車を販売しようとしている。しかし、電気自動車のほうが2倍もエネルギー効率が高い。ヨーロッパの国のなかには、家庭に水素パイプを配管しようとしている。しかし、ヒートポンプのほうが効率的であり、パイプの種類によっては水素ガスを安全に供給できないかもしれない。エネルギー関連の大企業や産油国のなかには天然ガスを用いて水素を製造しようとしている。しかし、その際に発生するカーボンを適切に処理しなければ、排出ガスの削減に寄与することはない。

 

水素にしかできないこともある。複雑なケミカル製造や、電気を使えない高温環境などだ。鉄鋼企業は排出ガスの8%を吐き出している。それは風力では代替できないコークス炭と溶鉱炉によるものだが、水素ならばグリーンができる可能性がある。ダイレクト・リダクションという工程であり、スウェーデンの合弁企業Hybritは8月、この製法によるクリーンな鉄鋼を世界で初めて販売をはじめた。

 

 

産業輸送においても活躍の場がある。たとえばバッテリーではまかないきれない長旅などである。水素トラックは電気自動車よりも燃料補充が速やかであり、積荷スペースも広くとれるうえに、より長い距離を走れる。アメリカの企業Cumminsは水素に賭けている。水素による燃料は、航空機や船舶などにも有用だとされている。フランス企業Alstomは水素を動力源とした機関車をヨーロッパの線路に走らせている。

 

さらに水素は他のエネルギーを貯蔵して輸送することを可能にする。再生可能エネルギーは無風や曇天には無力であるが、水素の形に変換しておけば安価な長期保存が可能であり、必要に応じて電力に戻すことができる。ユタ州発電所では地下施設に水素ガスを貯蔵し、カリフォルニア州に供給している。太陽光や風力に恵まれた地域でも、電力の輸送手段がない場所がある。そんな場所でもエネルギーを水素の形にすれば輸出することができる。チリやモロッコなどは世界中に「太陽」を船出させようとしている。

 

水素には大金が流れ込んでいるので、水素の用途はさらに広がるだろう。主に民間企業に仕事はまかされているが、政府サイドにもできることがある。一つは偽グリーンを取り締まることだ。二酸化炭素を回収せずに汚染燃料から水素を製造しても、環境にとって良いことはない。水素の製造における全行程の排出ガスを明らかにするために、新たなルールが必要だ。国境を越えた取り引きにも対応するため、国際的な合意も必要となるだろう。

 

政府は、水素に関わる様々な業態を取りまとめる中心拠点をつくるべきだ。そうすることによって、似たような施設の重複を避けることができる。すでにイギリスのハンバーサイド、オランダのロッテルダムなどでは、そうした拠点ができつつある。水素の利用には限界もあるが、よりクリーンなエネルギーとして重要な役割を担わなければならない。

 

 

欠乏経済 Oct 2021

 

The Economist, Oct 9th 2021

 

Leaders

Stagflation risks

The shortage economy

 

欠乏経済

 

 

金融危機から10年間ほどの経済問題は、消費の低迷であった。不安をかかえた人々は借金の額を減らし、政府は財政緊縮をはかり、慎重な企業は投資を控えた(とくに雇用が縮小された)。そして現在、政府の刺激策もあって、消費はすっかり回復している。むしろ供給が追いつかないほどに。トラック運転手にはボーナスが支給され、コンテナ船の一団はカリフォルニア港が空くのを待っており、エネルギー価格は上昇をつづけている。投資家らがインフレ率の上昇を警戒するほどに、2010年代の飽和状態が一転、欠乏経済に陥ってしまっている。

 

その直接の原因はコロナウイルスにある。およそ10.4兆ドル(約1,100兆円)規模の世界的な景気刺激策は、猛烈だが偏った消費回復をもたらした。消費者らはいつもより物にお金をつかい、投資不足であったサプライチェーンを活性化させた。コロナ禍のなか、電子機器の需要は急増したが、マイクロチップの不足により、台湾のような輸出産業に打撃を与えた。またデルタ株の拡散によって、アジアなどの繊維産業の多くは閉鎖に追い込まれた。先進国では移民が減少し、刺激策により銀行残高は増えたものの、倉庫や工場などでの労働力が不足した。いまやブルックリンからブリスベンまで、労働力の争奪戦が繰り広げられている。

 

こうした欠乏経済もまた、2つの根深い力学の結果といえる。一つや脱炭素化である。石炭から再生可能エネルギーへと転換したことにより、ヨーロッパ(とくにイギリス)では天然ガスの供給が脆弱になっている。スポット価格では今週、60%ものパニック的な値上がりをみせた。EUの排出トレードスキームにおけるカーボンの価格が上昇しているため、汚染エネルギー源への転換がむずかしくなっている。中国周辺では環境規制が厳しすぎるため、電力危機に直面している地域もある。輸送や電子部品の価格が上昇していることにより、生産拡大への投資が増えている。世界的に環境を汚染するようなエネルギーから離れはじめているため、そうした化石燃料産業への長期的な投資は減ってきている。

 

 

2つ目は保護主義である。今週の特別レポートにあるように、もはや貿易政策において経済効率が優先されることはなく、地政学上の対抗国に打撃を与えるために海外の労働力や環境基準の目標が設定されている。

 

今週、ジョー・バイデン政権がトランプ大統領時代の中国への関税(平均19%)を据え置くことに決定した。企業は免税を申請することができる(連邦官僚とやり合わなければならないが)。世界中で経済の囲い込みが行われているために、欠乏経済が発生している。イギリスでトラック運転手が不足していることも、EU脱退に起因している。インドの石炭不足も、燃料輸入を制限したことに端を発する。交易環境の緊張がつづいているために、企業による国境を超えた投資が、2015年以来、世界GDP比で半分以上にまで落ち込んでいる。

 

こうした状況は1970年代と酷似している。多くの地域で当時、石油が不足し、物価が2ケタ上昇し、経済が低低していた。半世紀前、政治家らは経済政策を誤り、物価調整のような無駄な方法でインフレに対抗しようとしていた。米ジェラルド・フォード大統領は「今こそインフレに鞭打て」とばかりに野菜の栽培を国民に奨励した。現在、連邦準備制度はインフレの予測方法を議論しているが、共通した意見は、中央銀行が監視を継続する権利と義務を有するといったものだ。

 

 

今のところ、インフレが手に負えなくなるような状況は想像しにくい。エネルギー価格でさえ、冬を越えれば落ち着くだろう。来年にはワクチンが行き渡り、新たなコロナ対策が混乱を抑えることになるだろう。消費者らはサービスにもっとお金を使えるようになる。財政刺激策は2022年までには下火になるだろう。バイデン大統領は巨額の支出法案が議会を通らずに苦心している。イギリスは増税を計画している。中国は住宅がらみの混乱が消費を落ち込ませるかもしれないが、2010年代の水準へと回復するだろう。特定産業への投資拡大によって、生産力と生産性がいずれ向上していくだろう。

 

とはいえ、打つ手を間違えてはならない。不足した経済が表面化した底流には、然るべき理由が存在する。政治家らは方向違いの政策をすみやかに終了させなければならない。水素などの技術により、クリーンエネルギーがより確かなものとなる日はくる。かといって、現在のエネルギー不足が即座に解消するわけではない。燃料および電気料金が上昇することにより、その反動があるだろう。政府は化石燃料にかわるグリーンな代替エネルギーが豊富に存在すると確信しなければならない。そうしなければ、エネルギー不足を解消するために排出規制を緩めたり、汚染度の高いエネルギーに逆戻りしてしまうかもしれない。現在のエネルギーコストの上昇と経済成長の鈍化が排出削減に起因するのだとしたら、政治家らはもっと慎重に計画を練らなければならない。脱炭素化により奇跡的に経済が成長するなどと唱えれば、それは失望しか生まないであろう。

 

また、保護主義や政府介入が欠乏経済によって正当化されうる。店棚が空になったり、エネルギーが不足したりすれば、有権者らは政府を非難する。政府は政府で、それを気まぐれな外国人や脆弱な供給網のせいにする。そして自立をうながす口実とする。イギリスでは食品産業で必要となる二酸化炭素の供給を維持するために、肥料工場を救済している。労働者不足によって、経済全体の賃金や生産性が向上するだろうと政府はうそぶく。実際には、移民や交易への障壁を高くすることによって、経済は落ち込んでいくだろう。

 

経済が混乱すると、人々は経済の正当性に対して疑いをもちはじめる。1970年代のトラウマによって、大きな政府や過酷なケインズ主義を拒絶したくなる。しかし、現在の経済的な負担によって、脱炭素化やグローバリゼーションまで否定してしまうと、長期的には破壊的な結果をむかえることになるだろう。これこそが欠乏経済による本当の脅威である。

 

 

海藻ファーム Sep 2021

 

The Economist, Sep 30th 2021

 

Science & Technology

Aquaculture

Seaweed at scale

 

海藻ファーム

 

 

かつては海の森のごとくに繁茂していた海藻が、姿を消しはじめている。温暖化が原因だ。海面に近い層が加熱されるため、熱膨張によって密度が薄まってしまう。そうすると海藻が浮きやすくなってしまうのだ。また、そうした浮力によって海底の冷たく栄養分の濃い層と混ざりにくくなってしまう。この現象は、海の生態系にとって好ましいことではない。商売のかかった海藻生産者にとっては、とりわけ悪い。年間60~400億ドル(約6,600億~4兆4,000億円)もの産業がである。

 

アジア料理に欠かせない昆布も被害を受けている。昆布はまた、肥料として用いられたり、カラギーナンに加工されたりして利用されている。カラギーナンとは食品用の結合剤または乳化剤であり、化粧品や薬品としても使われている。昆布は海底で成長させたり、ロープに取り付けて育てられたりする。小さな浮島で栽培されることもある。

 

主に熱帯地域で海水面の水温上昇が報告されているが、研究者らはそれに対抗すべく、人工浮島による海藻の栽培に取り組みはじめている。海底の冷たい海水を上昇させることで、海藻の成長をうながすという。浮島を海岸から離れた場所に設置することにより、海藻の栽培範囲を広げることができる。そうした実験は8月、アメリカの慈善団体the Climate Foundationによってフィリピン沖で開始された。この手の試みとしては最大級の規模である。

 

 

人工的に海水を上昇させることは、新しいアイディアではない。昆布の森の再生方法として、何年ものあいだ行われてきた。巨大な昆布の葉状部分は平均30mもの長さになるが、冷たい海水を上昇させることで、一日50cm以上も成長する。ただ、いまほど上昇刺激法が切実なときは他になかった。

 

アメリカの慈善団体the Climate Foundationによる人工浮島のテストは、100平方mの範囲で行われた。数百メートル下の海水を円筒状の柔軟なパイプを通して、太陽光で駆動するタービンの力で汲み上げる。風力や波力を動力とする計画もある。

 

この試みがうまくいけば、よりスケールを広げて行うことになる。この技術は海藻の生産量を増大させるだけでなく、海藻の森に起因する生態系を保護することにもつながる。収穫された昆布の一部を海底深くに沈めれば、温室効果ガスである二酸化炭素を固定することになる(理論上はそうなる)。そうすることによって、そもそもの原因である温暖化を和らげられるかもしれない。

 

 

財団のBrian von Herzenによれば、小規模の実験も2020年におこなったという。その結果、低温海水を汲み上げて与えた海藻は、そうしなかった海藻に比べて4倍のスピードで成長した。さらに、通常の海藻が萎れてしまう暖かい時期にも成長をつづけたという。

 

Dr von Herzenは実験により集積された経験をもとに、人工浮島の規模を現在の100倍に拡大しようとしている。オーストラリアの官民組織the Marine Bioproducts Cooperative Research Centreと協力する計画もあり、見積もりによれば5年で資金が回収できるという。

 

さらに、海藻ファームは海藻それ以上の価値をも生み出す。たとえば、海藻を棲家とする魚などが寄ってくるので、それらを捕獲することができる。実際、海水の汲み上げによって海藻栽培に必要な環境以上のものがもたらされている。ドイツのOcean artUpというプロジェクト(the Helmholtz Centre for Ocean Researchによる)は、イワシの食するプランクトンを低温海水の湧昇によって育てる実験をしている。

 

 

大西洋と地中海の両方で、イワシなどの魚が急速に減少しているが、この技術を使えば再び個体数を殖やすことができるかもしれない。2017年にはじめられたプロジェクトOcean artUpは、年内いっぱいの活動を予定しており、海水湧昇によってどれほどの栄養が供給できるのかを正確に計測している。汲み上げのスピードが速すぎると、低層の海水はすぐに海底に戻ってしまい、上層の海水と混じり合わない。栄養を海水面近くに保つには、海水を適度に撹拌する装置が必要なのかもしれない。

 

サンフランシスコではOtherlabという調査研究所が、浮遊する海藻ファームを固定するため、海中ロボットによって海底に固定用の鎖を打ち込んだ。嵐などの悪天候に対処するためである。Otherlabはアメリカの政府機関arpa-eによって資金を提供されているが、arpa-eはバイオ燃料用の海藻栽培を模索しているという。

 

こうした地球工学(温暖化に抵抗するために気候を変えようとする技術)に嫌悪感を感じる人々は、人工的な海水湧昇に疑問をもつかもしれない。そんなことをすれば、海洋の生態系を変えることになり、思わぬ副作用を生じてしまうのではないか。気候変動を緩和するのではなく加速させてしまうのではないか、と。逆に賛同者らは、こう考える。気候変動によって滞ってしまった海水の上下運動を、海水湧昇の技術によって回復させているだけだ、と。

 

 

アメリカと中国の研究者チームが昨年、Nature Climate Changeに発表したレポートによると、世界全体の海水面が1960年にくらべ5%、熱帯では20%上昇しているという。地球温暖化による異常気象の影響を考慮にいれてなお、海洋が大いに撹拌されているにもかかわらず、表層の暖かい海水がさらに増えていることになる。

 

海水湧昇によって、海の表面温度を下げれば、その地域の気温も低下することになる。海水が暖かければ、上空の空気も温まり、冷たければ気温も下がる。とはいえ、何百万ヘクタールもの海に装置を備え付けなければ、実際の気温を下げることは難しいだろう。

 

Dr von Herzenはこういった取り組みを支持しておらず、結局は金銭的な壁に突き当たるだろうと指摘する。国際的な取り決めであるThe London Protocolは海洋汚染を規制しており、海に建造物を備え付けることに厳しい制限がある。とはいえ、たとえ商業的な開発でも、二酸化炭素への対策がなされているのであれば、認められるケースもある。

 

もし大規模な海藻ファームが地球工学とみなされるのであれば、じつに皮肉なことになる。二酸化炭素を海底に閉じ込めるために、海藻を沈めるという方法は、短期的には効果があるだろう。しかし、そうした有機物が海底に堆積するということは、何百年もすると現代のような石油地帯をつくりだすことになる。そして、またしても狂ったように採油され、温暖化ガスを大気中に解放することになるだろう。それこそを、防がなければならないというのに。

 

 

発酵クラブ Sep 2021

 

The Economist, Sep 28th 2021

 

Technology Quarterly

Precision fermentation

Culture club

 

発酵クラブ

 

 

独特の匂いのする、塩味のきいたプロシュート(生ハム)。ブレサオラは顎が疲れるほどに歯ごたえがあり、ラルドの脂は燻製で引き締まっている。ファンにはたまらない。ファンでなくとも、これらの食品は動脈をきれいにしてくれる。最高の燻製は、タイ北東部にある。米、豚肉、ニンニク、塩、そしてハーブが詰め込まれたソーセージを、室温で数日放置しておく。このネームという燻製肉は、火を通せば濃厚な味わいになるが、最高の食べ方は生食で、チリペッパーとニンニクでいただく。

 

その鼻に抜ける酸味が、ほかの強烈な風味と完璧に調和している。それもこれも、乳酸を生成してくれるバクテリアのお陰である。酸を生成するのは、酸に弱いほかの微生物の生長を阻害し、エサの奪い合いを制するためだ。そして、そのおこぼれを人間がいただくことになる。この種のバクテリアを利用した食品には、ナイジェリアのオギや、韓国のキムチなどがある。また、ロックダウンの際に家庭などで作られた、サワー種のパンなどもそうだ。

 

 

人類は有史以前から、食品を保存するために微生物による発酵を利用してきた。乳酸発酵がなかったら、キャベツが豊作のときには、食べきれずに腐らせてしまっていただろう。ところが、微生物と塩の力を借りれば、ザワークラフトとして保存が可能になる。エタノール発酵はパンを膨らませ、シャンパンを発泡させる。酢酸発酵によってビネガーやピクルスがつくられる。ベルギーのゼンヌバレーで醸造される唯一無二のランビックビールもそうだ。

 

サワー種のスターターやヨーグルトの培養などでは、微生物が単独種で働くのではなく、多種が共同で機能する。発酵の度合いは、長年のカン、もしくは見た目、匂い、味など(パン生地ならば触感)で判断される。

 

 

多くの発酵が工業化、大規模化している。ビタミンや風味づけ、色付けなどにも微生物の発酵が利用されている。発酵による製品は保存料や添加物として用いられるばかりでなく、それ自体が食用とされることもある。イースト菌がビールのアルコールを生成する際、さらなるイースト菌も生まれる。そして、それらはマーマイトとして食される。マーマイト(Marmite)というのは、イギリス人の好むピリッとしたペーストである(好みの分かれるところでもある)。クォーン(Quorn)という植物由来の肉の代替品もある。これは1960年代に化学企業が発見したミクロ菌の生み出すもので、生長がとても早い。

 

食品開発者は遺伝子を自由に操作して、微細なる発酵の世界を探査している。そして、特定の目的にかなう微生物を選び出して改良を加えている。1990年にファイザー社がインシュリンをつくるときに使われる遺伝子操作の技術を用いて、画期的な微生物を生み出した。レンネット(レニン酵素を含む物質)から凝固作用のある物質を生成したのである。それはミルクを固めてチーズにするときに使われる。かつてレンネットは、乳離れしていない子牛の4番目の胃袋から採取されていたが、手間がかかる。化学的に生成することで、チーズの大量生産が可能になった。

 

 

遺伝子改変された微生物はいまや、さまざまな食品にとって重要なタンパク質をつくっている。Impossible Foods社はレグヘモグロビンというタンパク質をバーガーとして提供している。動物に由来しないチーズをつくるために、乳清やカゼイ(タンパク質)をつくる微生物をつくった企業もある。また、合成皮革をつくるコラーゲンや、繊維として使う蜘蛛の糸なども作られている。

 

化学者らは然るべき微生物を然るべき発酵槽に入れれば、飽和脂肪を豊富に産出できると考えている。飽和脂肪はアボガドやココナッツオイルに含まれているもので、植物由来の代替肉にリアルな触感を与えてくれる。原理的には、パームオイルも森林伐採することなしに生産することができる。エネルギーと原料さえあれば、場所を問わずにいつも何かを生み出すことができるだろう。発酵には変える力がある。しかし、無から生じるわけではない。魔術ではなく、代謝作用である。

 

さっそく、目の前のネーム(燻製ソーセージ)で試してみよう。

 

 

垂直なる農業 Sep 2021

 

The Economist, Sep 28th 2021

 

Technology Quarterly

Urban Farming

Green castles in the sky

 

垂直なる農業

 

 

世界最高のバジルは、ジェノヴァの西、リグーリア海岸の小さな村で育てられている。日照時間と夜間気温から算出される最高の時期に、そのバジルは収穫される。ペーストにされた極上のバジルは、リグーリアの名に恥じない逸品である。

 

ジェノヴァに車で行ける人よりも多くの人々が、普通のバジルを食べているのは残念だ。リグーリア海岸のそばでさえ、自然の気候は完璧なものではない。ジェノヴァのシェフが躍り上がるほど新鮮ではないにしろ、スーパーで売られているビニール袋のなかで萎れたものよりはいい。そのシャキシャキ感とアニスのようなピリッと感は、本物に極めて近い。それがブルックリンの駐車場の裏手にある、輸送コンテナのなかで栽培されている。礼拝堂を少し下ったところ、ガソリンスタンドの角にある。

 

 

これらのコンテナハウスは垂直型ファームである。作物は横にではなく縦に(上に)並んでいる。そのため、普通の農場では考えられないほどの栽植密度となっている。この農場のオーナーSquare Rootsは、ここでフレッシュなハーブを育てており、ニューヨークの小売100店舗に、排出ガスゼロの電気三輪車で24時間以内に配送している。この会社はミシガン州のGrand Rapidsにもっと大きな工場を有しており、さらなる拡大を目指している。

 

垂直ファームだからといって小さいものばかりではない。南サンフランシスコのPlentyという農場は、8,100平方m(2エーカー)という規模であり、通常の農場の300倍の生産性があるという(自称)。同様の大規模垂直ファームは、UAEとスイスにおいても進行中である。中国でもそうした垂直ファームを上海近郊に建設する計画がある。

 

 

いずれの垂直ファームも、いくつか共通の特徴をもつ。まず、土を使わない。作物は空気中の養液ミストで育てられるか、コンテナ内の養液に浸されて育てられる(養液は絶え間なく循環している)。

 

こうした方法により、水の使用量が通常よりかなり抑えられる。土を使わないので、根の摂取する養分レベルのコントロールが正確にできる。雑草や微生物、その他の害虫などは土がないと生きられないので、垂直ファームではそれらの発生がほとんどない。また、使用される水は循環してリサイクルされるため、一般水系へ富栄養水が流出することはない。魚の養殖と組み合わせたものもあり、植物が魚のエサとなり、魚の排出物が植物の栄養となる(アクアポニックという)。

 

 

日光もいらない。LEDの光が、混み入った葉っぱ全体に当たるように配置されている。問題は、LEDライトの電気代である。この点に関して、現在LEDの価格は落ちており、今後LED1キロワットが生成する光量は増加していくという話がある。いわゆるハイツの法則であり、LEDの光効率が10年ごとに改善されていくという。たとえそうだとしても、光と温度を調節するコストはそれなりに高い。

 

今のところ、ハイツの法則によらなくとも事態は改善している。垂直ファームで使用されるエネルギーは、そのほとんどが電力である。電力網における再生可能エネルギーの枠がふえれば、より環境負荷が減り、電力供給者の燃料コストが下がれば、電力も安くなる。垂直ファームでは、電力の需給に応じて昼と夜の時間帯を調整することができる。電力の安い時間帯を昼とし、電力の不足する時間帯を夜とすることができるのである。

 

 

コントロール、これこそが最大の強みである。光量、温度、栄養などを直接コントロールできるので、作物の生長に合わせた最適化が可能である。育てる作物も選ぶことができる。生長が早く、重量が軽く、利益率が高いものが現在、多く栽培されている。高品質のハーブや葉物野菜などは、年間を通して地元の需要が確保されている。

 

ベリー類が次に選ばれる。ベリー栽培は多量の殺虫剤を必要とし、長距離輸送に耐えられるような品種が栽培される。そして、甘く香る真っ赤に熟したベリーが7月に収穫される。11月の棚に並んでいるのは、不味くて色付きのあまいゴルフボールのように硬いものばかりだ。ところが、垂直ファームで光と温度、栄養素をコントロールすることによって、一年を通して都市部でも旬のジューシーさをもったベリーが食べられるようになる。

 

 

コントロールにはデータが必要だ。垂直ファームでは、通常の農場ではどんなに精度を上げても得られないようなデータを保持している。ファームの規模が大きくなるほど、情報量も膨大になる。理論的には、より良く、より効率的になっていく。Square Rootsのブルックリンファームの経営者Anya Rosenは言う、垂直ファームはまったく自然ではない。自然とは正反対だ。巨大ロボットが植物を育てているようなものだ、と。

 

その言葉自体は、魅力的に響かないかもしれない。だが、健康・自然・純度・環境、この4つの観点から評価するならば、垂直ファームは高得点をかせげる。植物をとりまく栽培技術は、植物それ自体に比べて決して不快なものではない。植物が整然と積み重ねられているファームの冷たい明るさは、自然なものではないが、明らかに洗練されている。閉ざされた空間は、外界を害するものでもない(化石燃料に由来するエネルギーを大量消費しているのだが)。

 

 

こうした利点を考え、目的をもった投資家たちは垂直ファーム企業に資金を注ぎ込んでいる(多大なエネルギーコストも承知して)。Plentyは5億4,100万ドル(約600億円)を6回の資金調達から得ている。SPAC(特別買収目的会社)は、ニュージャージー州のAeroFarmsを近々買収する。AeroFarmsはニューアークの古い工場を巨大な垂直ファームに仕立てあげた。彼らは収益化する以前から、こうした事業をおこなっているのである。

 

環境保護論者にとって、垂直ファームは脇役にすぎない。実際の農業が環境に与えているストレスの方がずっと大きい。垂直ファームは、地球環境にそれほど大きな負荷を与えなくても、ビジネスとして十分に成立する。都市部の富裕層をターゲットにするだけでもやっていけるだろう。それでも、垂直ファームが環境保護論者にとって無害なわけではない。植物由来の食肉が、消費者に食を考えるきっかけを与えたことと異なり、いったい味はどうなのかということである。さまざまな実験的栽培を通して、効率と品質はともに向上していくだろう。

 

 

垂直ファームは、世界の農業のやり方をすぐに変えることはないだろう。多くの投資家たちは、いつ参入するか、どの企業を支援するかを見誤っている。たとえ投資家が支援した企業が大きくなったとしても、短期もしくは中期的な見通しでは、都市部の富裕層に食を提供するだけにとどまるだろう。

 

世界がもっと裕福に、もっと都市化されたのならば、垂直ファームは良いビジネスになるはずだ。当然、環境にとっても好ましい(メインストリームにはならなくとも)。しかし、時代はもっと先へいっているかもしれない。農業には、エネルギーを食料に転換してきた長い歴史がある。20世紀の農業は、トラクターをはじめとする機械類、化学肥料、そして農薬などすべて、化石燃料を用いてその生産性を向上させてきた。石油などに蓄積されていたエネルギーが、食料の増産に寄与してきたのである。

 

21世紀の中頃から後半にかけて、クリーンで安価な電力による人工光や室内環境のコントロールは、このまま続けられていく。だからといって垂直ファームがすぐに資金回収できるわけではない。しかし、19世紀には想像できなかった農法が、この20世紀にはある。同様に、21世紀の農業は、生産性、環境性などにおいて今日を凌駕していることだろう。もちろん高さに関しても。